長く働き続けることで老後の不安を解消しようという人も多いでしょう。70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となり、実際、65歳以降も働く人は増加傾向にあります。けれども、頑張って働いたことで、受け取れる年金額が減ってしまうケースも。今回は、65歳以降も働くことを会社から打診されたMさんを例に、年金の受け取り方を決める上で知っておくべき仕組みについて、南真理FPが解説します。
年金見込額12万円、退職間近の64歳女性「働いて年金が減るなんて、そんなまさか」驚きから一転、65歳以降も働く決断をしたワケ【FPが解説】
「年金の受給額を増やしたいなら繰下げ受給をすればいい」は正しい?
次にMさんは、ねんきん定期便で見た「繰下げ受給」についてFPに質問しました。「はがきを見たんですが、繰下げ受給をすると年金が増えるんですよね? 私も年金を増やしたいです」
FPはこう説明します。「年金を65歳で受け取らずに、66歳以降75歳までの間で年金受給の時期を繰下げると、その期間に応じて増額した金額を受け取ることができます。加算額は、受給開始月から1ヵ月繰下げるごとに0.7%ずつ増額され(最大84%)、一生変わりません。
それと、老齢基礎年金と老齢厚生年金は同時に繰下げを行う必要はなく、それぞれ繰下げることも可能です。もしMさんが70歳まで年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金同時)の繰下げをした場合、増額率は42%(60月×0.7%)で、年金受給額は約215万5,000円となります。65歳で年金の受給を開始する場合と比べて約63万7,000円(約月5万3,000円)増える計算ですね」
それを聞いたMさんは「年間で63万7,000円も受給額が増えるなら、やっぱり繰下げをしたほうが得ですね!」と目を輝かせました。
しかし、FPは「もちろん年金受給額が増えるのは大きなメリットです。ただし、注意点もあるので、それも考慮して決めてくださいね」こう釘を刺しました。
●繰下げ受給の注意点
①年金受給額が増えた分だけ社会保険料や税金が増える
繰下げ受給による年金受給額の増加で、医療保険・介護保険等の社会保険料や所得税・住民税の税金が増える場合があります。70歳まで年金受給を繰下げる場合の増額率である42%は、あくまで「額面」で「手取り額」とは異なる点を押さえておきましょう。
②在職老齢年金で減額・支給停止となっている年金は繰下げ受給による増額の対象とならない
たとえば、在職老齢年金による支給停止部分が40%だった場合、繰下げ受給による増額の対象となるのは60%部分のみとなります。
③繰下げ請求後、すぐに年金は受け取れない
繰下げ請求をした月の翌月分から増額した年金を受け取ることができます。たとえば、9月に繰下げ請求をすれば、10月分の年金から受け取ることができます。ただし、振込は12月になるため、請求してもすぐに受け取れません。
④「損益分岐点」を超えて長生きする必要がある
繰下げ受給は通常よりも遅く受け取り始めるので、ある程度長生きしなければ得にはなりません。Mさんの場合、65歳以降も5年間厚生年金に加入すれば、70歳からは約9万8,000円 が受給額に上乗せされます。繰下げ後の70歳時の年金215万5,000円を足すと、225万3,000円です。計算をすると、Mさんが70歳まで繰下げをして得をするのは、「81歳を超えて生きた場合」になります。