大学卒業から定年退職まで上場企業を勤め上げ、再雇用ののち65歳で雇用期間を満了した年収1,000万円超のエリートサラリーマン。誰もがうらやむ「定年後は悠々自適な老後生活」が送れると思いきや、大きな落とし穴が待っていました。上場企業で部長職まで務めたIさん(66歳)の事例をもとに、高所得者が老後破産危機に陥る原因と対策をみていきましょう。
退職金2,000万円で「余裕の老後」と思いきや…66歳・元上場企業サラリーマンが定年後、「ジリ貧生活」を余儀なくされたワケ【CFPが回避策を助言】
年収1,000万円超の順調な「現役時代」
ある日、筆者のFP事務所のもとに66歳の相談者Iさんが訪れました。Iさんの父親は90代前半で認知症、母親は80代後半で身体介護が必要な状況になったとのことです。2人を特別養護老人ホーム(公的施設:入居一時金0円、1人月10~15万円程度)に入居させようと考えたのですが、順番待ちで入れなかったため、結局2人で入れる有料老人ホームに入居することになりました。
ここで困ったのは費用の問題です。入居一時金と入居後の月々の費用の1人分(24万円)は、両親の資産と年金額で支払えるのですが、もう1人分の24万円は支払えません。結局、不足分は、IさんとIさんの弟で半分(12万円)ずつ援助することになったとのことでした。「手元に現金がほとんど残っておらず、老後生活が心配だ」というのです。そこでIさんに詳しく話を聞くことにしました。
Iさんは現役時代、上場企業の部長職まで勤めたエリートサラリーマンでした。28歳の時に2歳下の女性と結婚。その後、2人の子宝にも恵まれました。Iさんの奥さんは、とても教育熱心で、長男、長女2人とも中学受験をさせて大学まで有名私立に通わせ、上場企業に就職することができました。自慢の子どもです。Iさんの奥さんは、大卒後、3年間会社に勤めただけでずっと専業主婦だったそうです。
また、Iさんの生活は、年収1,000万円を超えていたため、趣味のゴルフをはじめ、車も数百万円の車を数年ごとに買い替え、家族旅行も豪華でした。特に、部長職のときは部下との飲み会をポケットマネーで払うこともたびたびあったとのことでした。
なお、40歳のときにマイホームも購入。住宅ローンは、退職金2,000万円のうち1,000万円を繰り上げ返済し、65歳退職時に完済しました。月々の手取りが60万円超の時代が長く続いたため、高い生活水準を落とせず、給料が激減した再雇用後も現役時代と同じように生活してきました。老後のお金にかんしては、退職金もあるため、まったく心配しなかったとのことでした。
また、65歳の定年後は、仕事がなくなったため手元の残りの退職金1,000万円を運用し、少しでも資産を増やしたいと考えるようになりました。退職と同時に、1,000万円を株に投資したとのことです。
Iさんは、今まで投資経験はありませんでした。今は運用益がでていますが、今後、株価が低迷することを考えると夜も眠れないとのことです。
どんぶり勘定では、順調満帆な人でも老後貧乏に転落するケースが多い
生命保険文化センターの調査(※1)によると、老後の夫婦2人の最低日常生活費は、月約23万円、ゆとりある生活費は月約38万円となっています。
Iさん夫婦2人年金の合計は、月38万円(本人:公的年金月20万円、企業年金月12万円、妻:公的年金月6万円)です。両親への介護の援助がなければ、十分ゆとりある生活を送ることができたはずでした。
今後は、両親への介護の援助が月12万円あるので、月約26万円で生活することになります。ちなみに、月約26万円は、総務省家計調査の、「65歳以上の夫婦のみの無職世帯」の生活費平均月約27万円を下回ります(※2)。