「まだまだ若い人には負けない」…そう思っていても、なかなか若い頃と同じように結果を出すことは簡単ではありません。そのような向上心はそのままに、目的をシフトさせていくことが重要であるといいます。思想家のユングは、老いをどのように考えたのでしょうか。小川仁志氏の著書『60歳からの哲学 いつまでも楽しく生きるための教養』(彩図社)より、老いをポジティブに捉えなおすヒントを解説します。
何に価値を置くべきか考え直す
まだまだ若い者には負けない。そんなふうにいう年配の方はたくさんいます。それはもちろん素晴らしいことですが、その「負けない」の意味は、若者と同じことを同じようにやって勝つというのではいけないように思います。
同じことをやるにしても、違うやり方をして、全体を最適化する。これが本当の「負けない」ということではないでしょうか。無理して同じやり方で競うというのは、全体にマイナスをもたらしかねません。
年配の人が、若い人の足を引っ張ったり、ポストを譲らないことで彼らの成長や活躍の機会を奪ったり、その結果、組織全体のパフォーマンスが最適なものにならないなどというのは、よく聞く話です。
これでは誰も得をしません。そんな悲劇を起こさないためにも、目的の変化を意識する必要があるのです。ユングはそのことを次のように表現しています。
ユングのいう「価値の値踏みのし直し」とは、「何にどんな価値があるのか、何に価値を置くべきなのか、考え直す」ということです。しかも、若いころにいいと思ったものの反対のものに価値を見出せといいます。
たしかに若いころはお金や出世が大事だったかもしれません。多少無理をしてでも遮二無二働くというのは、そういうことなのだと思います。
私もがむしゃらに突っ走ってきたくちです。お金や出世のためもありましたが、何より自分の限界に挑戦したかったのです。よく売れっ子作家が、寝る間もなかったと述懐しているのを聞きますが、私もそれにならって睡眠時間を削って執筆してきました。
ところが、50を過ぎたころ、突然身体を壊してしまったのです。まさに価値の値踏みのし直しを迫られました。
私の場合は、50歳というまだ比較的若い段階で、かつそれほど重病でもなかったので、取り返しがつかなくなる前に気づくことができました。いいタイミングで「値踏みのし直し」をする機会が与えられたということでしょう。まだ運が良かったのだと思います。
そう、お金や出世の反対のものといえば、やはり健康でしょう。年を取ってくるとちょっとした無理が大きく響くので、健康の方が重要になってきます。多少睡眠不足が続いても、40代くらいまでならなんとかなります。私もそうでした。
でも、50代だとそうやってダメージを受けるのです。60代だともっと大きなダメージを受けるでしょう。70代だとこういう無理は致命的なものになるに違いありません。
もちろん、年を取ってもお金は必要です。ただ、お金を持って死ねるわけではありませんから、生きている間に使うお金のことだけ考えればいいのです。身体を削ってまでお金を稼ぐというのは、あまりにリスキーです。年を取るとそれは身体ではなく、命そのものを削っていることになってしまいます。