味は引き継ぐけど、“遺したくないモノ”は…

――家庭料理って、味を引き継いでいくという側面もあると思うのですが、レミさんが次の世代に遺したいモノと遺したくないモノはありますか?

レミ:お金は遺したくない! はっはっは(笑)

――それはなぜですか?

レミ:お金を遺したら、よくないじゃん。だって私が働いて稼いだ私のお金だから(笑)。

遺したいのは「ベロつながりの絆」

 ――逆に遺したい、引き継ぎたいモノはありますか?

レミ:私はベロをつないでいきたい。(平野家伝来の)「牛トマ」とか「豚眠菜園」とか「ペテンダック」とかいろいろな料理を作っているけれど、みんなおいしい。私が考えたレシピだから、息子たちにも伝えていきたいし、嫁たちもちゃんと見習って私のお料理を作ってくれているの。だからベロつながりでつながっていけばいいなって思っている。それが望みかな。 

――上野樹里さんや和田明日香さんも引き継いでいるんですね。

レミ:そうよ~。例えばさ、私が死んだあとに子どもたちやそのまた子供たちが「レミおばあさんってどんなものを作っていたんだろう?」と思ったときに、「豚眠菜園」を食べて「スキンシップもないし、喋ったこともないけれど、レミおばあさんはこういうものを食べていたんだな」って思ってくれればベロつながりでそれが絆なのよね。家族の絆ってそういうもんなんじゃないかなって。

――確かにそうかもしれないですね。

レミ:だからベロつながりの絆。

 牛トマは祖父から! 5代も続く“ベロの絆”

 ――レミさんがお父さまやお母さま、そのまた上の世代から引き継いできたのも、ベロつながりの絆ですか?

レミ:私のおじいさんはフランス系アメリカ人だったんだけれど、祖父が牛肉とトマトを塩コショウで炒めた料理を食べていて、父親と母親が引き継いで、私が引き継いだの。それをあーちゃん(和田明日香さん)や樹里ちゃん(上野樹里さん)も作っている。孫も牛トマを作っていて、もう5代も続いているのよ。みんなで私の料理をね、ああ、私の料理じゃないのよ、祖父の料理を作っているとしたら、それってとても微笑ましいことだなって。

 ――何だか胸が熱くなりますね。

レミ:ね、ね! だからそういうお料理をみんなが3つか4つ持っていればいいんじゃないかな。うちの息子たち2人も、私の料理を食べて味が舌にこびりついているから、ちゃんと引き継いでいるのよね。あーちゃんや樹里ちゃんも引き継いでくれて、あーちゃん家に行っても樹里ちゃん家に行っても私の味だから、もうすっかりつながっちゃっているのよね。

 ――もう自然に?

レミ:そう。息子たちが小さい頃、勉強や宿題もキッチンのテーブルでやらせていたの。息子たちは、宿題をしながら私が夕飯の支度をしてゴボウをトントン切る音とか水をジャージャー流している音とか、ジージー炒めている音を全部聞いていたのよね。匂いもそう。

 ――レミさんの背中を見ていたんですね。

レミ:本当にそう。息子たちも宿題しながら「お母さんが僕たちのために晩御飯を作ってくれているな」って“幸せ感”を持ちながら勉強してくれてたんじゃないかな。

 ――そんなふうに引き継がれていくものなんですね。

レミ:ねー。お料理ってさ、目からも鼻からも耳からもどこからも幸せを感じて、しかも食べられるもんね。五感を満足させて、しかも食べられちゃうんだからこんないいことないわよ。

撮影・邑口京一郎
撮影・邑口京一郎