「定年退職を迎え、第二の人生と言われるけれど何をしていいかわからない」「SNSを開くと他人のキラキラした投稿ばかり目につく」「忙しい毎日に追われて自分らしさを失っている」……そんな悩みを抱えている人も少なくないのでは? 7月31日に最新エッセイ『この平坦な道を僕はまっすぐ歩けない』(新潮社)を上梓したお笑いコンビ「ハライチ」の岩井勇気さんに、日常を面白がるコツや悩んだときに岩井さんがやっていることなどを伺いました。
いつも何かが「起こっている」とは限らない
――人生100年時代と言われ、第二の人生の選択肢を考えている読者も多いです。例えば、定年退職を迎えて次は何をしようと考えたときに、何をしていいかわからないと迷ったり悩んだりしている人も少なくないと思うのですが、「日常」をテーマにエッセイを綴っている岩井さんからアドバイスというか助言をいただきたいです。
岩井勇気さん(以下、岩井):多くの人が、趣味とか見つけるとか、何か出来事が起こったことだけが充実していると思いすぎではないのかな? というのは思っていることですね。日常を過ごしていて、そんなに事件が起こることってないし……例えば、そうですね……。今日、取材の差し入れでゼリーをいただいたんです。マスカットとミックス、メロン、マンゴーの4種類なのですが、僕はメロンとマンゴーが食べられないんです。4分の2、食べられないんだって……。何でもないことなんですけれど、そういうことも面白がれば面白いと思うんですよ。
みんなSNSとかで発信しているから味が濃く見えるんだけれど、発信しているのをキャッチして惑わされないほうがいいですよ、というのは伝えたいかな。そんなにみんなにいつも何かが「起こって」ないから。発信している人は濃く出すし、でもそんなやつばかりじゃないから。
例えば、僕は手ぬぐいを200、300枚は持っているんですけれど、全部同じ畳み方でカゴにピシッと入れたときが一番気持ちいいんです。なんかそれくらいでいいですよね。僕はピシッと並べて気持ちいいくらいでいいんだって言い切れます。言い切るメンタルはある。言い切れない人ばかりですけどね(笑)。
「手ぬぐいピシッ」を「小さな幸せ」とは言わせない
――とはいえ、岩井さんがお仕事をしている芸能界は「発信だらけ」だと思うのですが、飲まれそうになったりしませんか?
岩井:芸能界って“養殖”のエピソードばかりじゃないですか。人工的というか。そういうのはあまり好きじゃなくて、何かを話のタネにしようと思ってとかエピソードにしようと思って行動するのが好きではないので、そこは客観的にというか一歩引いて見ています。
「充実した人生」というのも他人の基準で言っているだけだし、その基準は何? 誰の基準? って思っちゃうんです。さっきの「手ぬぐいピシッ」だって「小さな幸せ」と他人は言うかもしれない。言うかもしれないけれど、「別に自分の中では小さいって思っていないけど」みたいな。何と比べて小さいんだ? って。ずっと他人と比べてたらどうですか? って思っちゃうんです。