元プロ野球投手として通算244勝を挙げ、監督としては5度の日本シリーズを制覇した工藤公康(くどう・きみやす)さん。“中間管理職”としての野球監督のあり方や組織運営、試行錯誤しながら生まれたリーダーの姿などについてつづった『プロ野球の監督は中間管理職である』(日本能率協会マネジメントセンター)を上梓しました。「中間管理職」について、工藤さんにお話を伺いました。
「まずはなんとか一歩踏み出す」
――「中間管理職」がテーマということで、仕事をしている人によくある悩みについてもお話を伺いたいのですが、中堅という立場になると例えば転職や異動で今までとは違う場所で働くことになった場合、即戦力として期待されることが多いです。今までやっていたやり方でうまくいかないこともあると思うのですが、そんなときの壁の乗り越え方について伺いたいです。
工藤公康さん(以下、工藤):マイナスなことがあっても前に進むためにネガティブをポジティブな考え方に持っていったり、「このやり方で失敗したら次はああしよう」などと考えて、まずはなんとか一歩踏み出すのが大事だと思っています。
失敗したことをずっと考えていても何も変わらないし、何も動かない。では、もっと良い方法を見つければよりうまくいくだろう。そのためにどう思考を働かせるかが大事だと思います。
私も止まっていたんです。若い頃もそうでした、うまく行かなくて止まっていたときもあります。でも、結局それでは何も解決しないとわかったから、前に進む方法を考えようと思いました。だから若い人たちに言いたいのは「失敗してもいいよ」ということ。ただ、一番いけないのは「失敗は仕方ないですよね」と開き直ることです。
失敗した本人が「こんなこともありますよね」と言ってしまうと反省もできないし、前に進むための大前提を見つけられないまま進んでしまうことになります。そして同じような失敗をしてしまう……。
精一杯やって失敗したとしても、本人がどう行動を変えるかを見守って、変わっていければいいのですが、もしも変わることができなければその時はしっかりと改善点を指摘して話し合う。もしくは同じ失敗を繰り返さないように一緒にやってあげることが大事です。
――それが上の役割でもあるんですね。
工藤:一番大事なのは、本人を見てあげるということです。コーチからの報告を聞くだけではなくて、顔を見て話をして本人の課題ややっていることがうまくいっているのかを聞いてみる。性格によっても違いますが、顔を見て話せば、「今ちょっとうまくいってなさそうだな」とか「この顔はもう大丈夫だな」とかが表情から伝わってくるというか、見えてくると思います。
――本のテーマでもある「コミュニケーション」が大事なのですね。
工藤:そうです。はっきりと言わない選手もいるので、どういう声かけがうまくいくかを考えておく必要があります。自分から言ってこないタイプには質問形式で聞いてみる。「うまくいってるのか?」という聞き方ではなくて、「こういう話をしていたけれど、今はどのくらい進んでいるの?」とかですね。
――確かに上司から「大丈夫?」って聞かれて、全然大丈夫ではないのに「大丈夫です!」ってつい答えてしまうこと、よくあります。
工藤:答えというのは、聞き方によって決まってきます。ですからそれもシミュレーションをしておくのです。
――ここでもシミュレーションが活きてくるんですね。
工藤:聞くことができてもシミュレーションをしておかないと自分の意図していない言葉で返されたときに、反応が悪くなってしまいます。そのため「そうなんだね、わかりました」というような、ちょっとした言葉で会話が終わってしまうのです。