元プロ野球投手として通算244勝を挙げ、監督としては5度の日本シリーズを制覇した工藤公康(くどう・きみやす)さん。“中間管理職”としての野球監督のあり方や組織運営、試行錯誤しながら生まれたリーダーの姿などについてつづった『プロ野球の監督は中間管理職である』(日本能率協会マネジメントセンター)を上梓しました。「監督は中間管理職」という結論に至った経緯や中間管理職の悩みなど、工藤さんにお話を伺いました。
「監督は中間管理職」という結論に至ったワケ
――『プロ野球の監督は中間管理職である』を執筆されるに至った経緯をお聞かせください。
工藤公康さん(工藤):2015年に福岡ソフトバンクホークスの監督に就任して1年めのシーズンはリーグ優勝、そして日本一という最高の結果で終えることができました。1982年に西武ライオンズに入団して2011年に現役を引退するまでの29年間で培った自分なりの野球観には少しばかりの自信がありましたし、監督就任1年目のシーズンで良い結果を残せたことで「自分は間違っていなかった」との慢心から、選手やコーチ、トレーナーに対して「私のやり方でやってください」という一方通行のコミュニケーションが増えていたのです。
しかし2016年のシーズンは、独走していたホークスが最終的には北海道日本ハムファイターズに大逆転を許してしまい、シーズン2位という結果に終わりました。「私のやり方でやってください」と要求するコミュニケーションは窮地に立たされたときにとても脆いことに気づきました。「このままではいけない」と、自分のこれまでのやり方を振り返り「監督とはどうあるべきなのか」を考え直すことにしました。
本書にある組織図を見ていただけると一目瞭然なのですが、監督というのは、絶対的なリーダーでも大きな組織を率いる長でも何でもなく、会社における「中間管理職」のような立ち位置なのです。組織図を書き上げて、自分のコミュニケーションが「中間管理職」として求められているコミュニケーションとは大きくかけ離れていたことに改めて気づきました。
――監督は「中間管理職」ということですが、選手から監督の立場になって見えてきたことはどんなことですか?
工藤:たくさんありますが、原点は「みんな違う」ということです。人それぞれに「なりたい自分」があって、コーチも「こんなコーチになりたい」という理想像がそれぞれあります。先ほど述べたような「コーチはこうあるべき」のような思い込みをしてはいけない、人それぞれだから寄り添い方が違い、教え方も違い、知識も違うということです。
コミュニケーションのほかに、もう一つ大事なのが、シミュレーションです。私の場合は毎日試合がありました。次の試合をよくするためにとにかく前に進む必要があり、立ち止まっている時間はありませんでした。なぜなら、自分が立ち止まってしまうと選手が困ってしまうからです。
本当に毎日いろいろなことが起こりました。試合の前にも起こるし、「今日は無事終わったな」と試合後に思った瞬間に電話が鳴ることもありました。さまざなことが毎日起こる中で、ちゃんとシミュレーションをしておくことが大事ということを痛感しました。
――シミュレーションというのは最悪の事態も想定しておくということでしょうか?
工藤:そうです。ありとあらゆる怪我も起こるし、体調不良も起こります。選手によっては朝起きたら首が痛いということもあるので、ある程度臨機応変に対応できるようにしておく必要があります。そのためにはコーチたちと常に連携して、今状態の良い選手を把握しておく。そのためにはコミュニケーションが大事です。