健康管理に気を付けていても、がんになるときは突然やってきます。医療保険には加入している、という人も多いでしょうが、加入内容はしっかり把握していますか? なかには、いざというときに役に立たないというケースも……。本記事では、Sさんの事例とともに医療保険の注意点について、FP dream代表FPの藤原洋子氏が解説します。
「すい臓がんです」年金月13万円・貯蓄1,000万円の60代母、〈医療保険〉があるから安心かと思いきや…まさかの“給付金0円”の悲劇「なにかの間違いでは?」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

人間ドックで「すい臓がん」の疑い

人間ドックは、Sさんの夫が亡くなってから毎年受診しています。費用は1回5万円ほどかかりますが、健康診断より検査の範囲が広いので、なにか病気があれば早く見つかるのではないかと考えたからでした。

 

1年前、例年と同じように人間ドックを受診しました。気になるような体調の変化はなかったので心配はしていなかったのですが、超音波検査で異常が見られると指摘され医療機関を受診するように勧められました。

 

「えっ……」医師の言葉にSさんは動揺しました。「すい臓に影がある」というものだったからです。「すい臓がんかもしれないってこと?」

 

すい臓がんについてSさんは、聞きかじったことが頭に浮かびました。

 

1.早期発見が難しい
2.早期発見しづらいため治りにくい
3.長期間の入院が必要

 

というものでした。

 

「症状はなにも出てないのに、がん? なにも出てないということは、早期発見だったの?」わからないことだらけのSさんでした。「まだ、がんと言われたわけではないし……。落ち着かなきゃ……落ち着かなきゃ……」

 

しばらくして人間ドックの結果が送られてきました。診断結果を持参してかかりつけのクリニックへ、その後大きな病院で何種類も検査を受けました。検査結果が出るまで、しばらく日数がかかります。

 

診断を待っている期間に子ども達にも連絡しました。長男と長女は、最初は驚きを隠せませんでしたが、インターネットや本などから情報を集めて、前向きにとらえられるように協力してくれました。

 

長女は、診断を聞く際にSさんに付き添ってくれました。「すい臓がんですね」思いのほかあっさりと病名が告げられました。病院の帰りに長女は、「お母さん、いつも人間ドックを受けているから早くわかってよかったね!」と元気づけてくれました。家族の応援のおかげでSさんは、主治医に従ってしっかり治療をしていこうと決めることができました。

がんの治療費を補填する民間の医療保険

Sさんが加入している医療保険の内容は以下のとおりです。

 

ケガ・病気による入院:1日以上の入院で120日まで日額5,000円(通算1,000日まで)
生活習慣病による入院:1日以上の入院で120日まで日額5,000円(通算1,000日まで)
ケガ・病気による手術:1回10万円 
保険期間:終身

 

「入院が長くなっても4ヵ月は大丈夫。高齢になって生活習慣病で入院しても1日あたり1万円受け取れるから安心ね」そう考えて、10年前に終身タイプのものに見直していたものでした。

 

医師の診断では、リンパ節への転移が認められるので、まず、通院で抗がん剤治療を行うということでした。早速給付金請求を行ったSさんでしたが、窓口の保険担当者から給付金対象外といわれ、驚愕します。

 

「医療保険なのに給付金がもらえない!? なにかの間違いでしょう」

 

Sさんの加入している医療保険は、入院であれば1日目から支払いの対象となりますが、通院での治療には対応していません。したがって抗がん剤治療については医療保険からの給付金は受け取れないことになります。手術後も定期的に通院が必要になります※1

 

請求の際にいっしょに医療保険の内容を確認した長女とSさんは肩を落としました。貯蓄はあっても、このお金は使いたくなかったからです。長期間にわたる可能性のあるがん治療ですから、今後の医療費がどのくらいかかるのか気がかりでした。