そもそも「ドラッグストア」とはなにか
現在、地域包括ケアシステム構想を踏まえ、薬局に求められる役割が、従来型の門前薬局から「地域のかかりつけ薬局」へと変化しつつあります。その変化のもと、クリニック開業の際にも、従来型の調剤薬局に門前での開店を頼むのではなく、ドラッグストアチェーンと連携することが有力な選択肢になっています。
それらを背景に、ドラッグストア業界の基本を確認しておきましょう。
ドラッグストアはアメリカで発展した業態で、1980年代に日本へと輸入されました。日本には薬品を販売する小売店として、調剤薬局などのいわゆる「薬店」が以前から存在していました。
しかし、ドラッグストアの「健康と美容に関する提案と訴求を主とし、医薬品と化粧品を中心に、日用家庭用品、文房具、フィルム等の日用雑貨、食品を取り扱う店」(一般社団法人日本チェーンドラッグストア協会による定義)というコンセプトは、都市化が進む日本でも広く受け入れられ、2000年前後から急速に普及しました。
ドラッグストアは、スーパーやコンビニなど、ほかの小売業態と同様、チェーン展開により発展してきました。現在、日本国内のドラッグストア業界全体の売上高は、約8兆7,134億円です(2022年、日本チェーンドラッグストア協会調べ)。
かつては日本各地にいくつものドラッグストアチェーンが誕生しましたが、M&Aによる吸収・合併などの再編淘汰を経て、現在では、年間売上高が1,000億円を超える有力チェーンは15社、そのなかでも、年間売上高5,000億円を超える大手チェーンは6社に絞られています。業界トップのA社は売上高約1兆1,400億円、2位のB社は約9,700億円で、私たちコスモス薬品は、売上高約8,300億円で業界第4位になります。(売上高はいずれも2023年度決算より)。
チェーンによって異なる売上構成
コンビニは、どのチェーンの店舗でも商品の品揃えに大きな違いはありません。同様に、どこのドラッグストアも品揃えに大差ないだろうと考えている方も多いでしょう。しかし、実際にはまったく異なる状況があります。
ドラッグストアで取り扱う商品種類(部門)には、大きくわけて「医薬品(OTC医薬品)」「調剤」「化粧品」「雑貨」「食品」があります。
大手6社の売上高における各部門の構成比を見てみましょう。
A社は突出した部門はなく、おおむね均等に近くなっています。また、B社は「雑貨」の占める割合が高く、C社は「化粧品」が突出しています。
私たちコスモス薬品は「食品」部門が売上の6割近くを占めており、かなり特徴的な構成比になっていることが見て取れます。
このように、一口に大手ドラッグストアチェーンといっても、その業容は各社でかなり異なっているのが実情です。
この違いは、クリニック開業時に連携するドラッグストアの選択において大切なポイントとなります。
クリニックがドラッグストアの併設・隣接で開業するメリット
次に、クリニックがドラッグストアと連携し、その敷地内や隣接地で開業することのメリットを確認します。
①認知度や好感度の向上が容易
新規クリニックの開業で最初のハードルになるのが、地域の住民にクリニックの存在を知ってもらうことです。そのため、さまざまな媒体に広告を出したりしなければなりません。
その点、クリニックがドラッグストアに併設・隣接されていれば、毎日訪れる多くの来店客の目に自然と入るため、それだけで認知度が上がっていきます。
人は、情報として触れる頻度が高いものに、親近感や好感を持ちやすいことが知られています。そのため、病気などで診療が必要になった場合も、真っ先に思い出してもらえる可能性が高くなります。
これは心理学の「単純接触効果」と呼ばれる理論で、マーケティング等でも活用されています。多くの企業が広告を出す理由は、この効果を狙ったものです。
つまり、多くの人が利用する商業施設に併設・隣接出店することで、広告に特別に力を入れなくても、自然と単純接触を得る機会が増え、潜在的に集患力が増加するというわけです。
また、ポスターを貼ったり、サッカー台(商品を袋詰めする台)にリーフレットを置いたりするなど、ドラッグストアの店舗を利用した純粋な広告活動も、容易におこなえます。
②待ち時間や診療前後に買い物ができ、患者様の利便性が高まる
次に、クリニックに診療に訪れた患者様の立場で考えてみましょう。
まず、ドラッグストアが併設されていれば、当然、診療後に処方薬を受取るのに便利ですが、これは門前薬局でも同様です。ドラッグストアならではのメリットは、薬だけではなく、マスクやガーゼ、消毒薬などの衛生用品、健康食品やサプリメントなど、患者様が診療後に必要と感じる薬以外のものも、まとめて購入できることです。心身に不調があってクリニックに訪れた患者様にとって、この利便性は特にありがたく感じられるものです。
また、クリニックでの受付から診療までの時間、検査から当日の検査結果の説明までの時間、診療後の会計待ち時間など、様々な場面で生じる待ち時間に対して、患者様は不満を持ちます。
「タイパ」(タイム・パフォーマンス)という言葉が流行語になったように、時間の無駄を嫌う傾向は、最近ますます強まっているのです。そのため、クリニックのクチコミ評価などでも、待ち時間の長さは悪いクチコミが生じる理由の上位に位置しています。
ドラッグストアが併設されていれば、待ち時間の間に患者様は買い物をすることができます。仮に待機時間が長かったとしても、その時間を無駄にしないので、患者様の不満は高まりにくくなります。
③十分な駐車場が用意されている
先生がご自身で土地建物を用意してクリニックを開業する場合、見込み患者数に対して、十分な余裕を持った駐車場スペースを確保するのは容易ではありません。そのため、開業から順調に患者様が増えていくと、しばしば駐車場が不足するという問題が起こります。近隣に適切な空き地がなければ、離れたコインパーキングなどの利用をお願いすることになり、患者様の利便性が悪くなります。
その点、ドラッグストアには、都市部の店舗は例外として、通常は広い駐車場が設けられています。クリニックに訪れる患者様も、この駐車場を利用できるため、後々まで、駐車場の心配をする必要がありません。
なお、細かい点ですが、ドラッグストアの駐車場は、一般的にゆったりした間隔で駐車できる設計となっており、運転に自信がない患者様でも利用しやすいというメリットがあります。
まとめ
今回は、ドラッグストアの基本、クリニックをドラッグストア併設・隣接で開業することのメリットについて解説しました。次回の『クリニック開業における連携ドラッグストア選びのポイント(後編)』では、今回の内容を踏まえた上で、どんなドラッグストアと連携すればいいのかについて説明します。