大切なのは企業規模ではなく「その店舗の来客数」
現在、年間売上高5,000億円を超える大手ドラッグストアチェーンは6社ありますが、そこから連携するドラッグストアチェーンを選ぶ場合、最初に注意したいのは、「企業全社での売上高や業容は、ほとんど気にする必要がない」という点です。
クリニックが出店するのは、特定のドラッグストア店舗の敷地なのですから、クリニック経営に影響を与えるのも、あくまで「その店舗」の事業状況だけです。
そして、ドラッグストア店舗の事業状況でチェックすべきポイントはいくつかありますが、もっとも重要なのは来店客数です。
前回の記事で、ドラッグストア併設・隣接で開業することのメリットとして、地域住民の生活動線上にクリニックが存在することにより「単純接触効果」が生じ、認知度や好感度がアップすることを説明しました。これは、その店舗への来店客数が多ければ多いほど、効果的になります。
では、来店客数を知るにはどうしたらいいのでしょうか?
地域にあるドラッグストアの来店客数を正確に知るには、ドラッグストア側から内部資料を提示してもらうしかありませんが、ドラッグストアチェーン間のおおまかな比較をするだけなら、1店舗あたりの売上高で代用することができます。
上場企業のドラッグストアチェーンなら、各社のWebサイト等で開示されている決算情報で、売上高や店舗数がわかります。売上高を店舗数で割れば、1店舗当たりの売上高を求めることができます。ドラッグストアチェーン間で客単価に大きな差異はないと仮定すれば、1店舗当たり売上高を比較することにより、集客力を比較できるというわけです。
ドラッグストアチェーンの比較においては、まずこの点をチェックしましょう。
売上高に占める商品(部門)構成が顧客の来店頻度に影響を与える
なお、ドラッグストアチェーンによって、売上に占める商品(部門)の構成比が大きく異なっていることは、前回の記事で説明しましたが、ドラッグストア店舗の集客力を見る際に、あわせて考慮しておきたいのが、この商品(部門)構成の違いによる顧客の来店頻度への影響です。
例えば、医薬品は毎日購入するようなものではありません。そこで医薬品の売上割合が高いチェーンは、平均的な顧客の来店頻度が相対的に低いと予測できます。化粧品や雑貨も毎日購入するような商品ではなく、医薬品ほどではないにしろ、購入頻度が低い商品部門でしょう。
逆に、食品は、毎日あるいは1日おきなど、高い頻度で購入される商品部門です。そのため、コスモス薬品のように食品の売上構成比が高いチェーンは、来店頻度の高い顧客が多いと予想されます。
ドラッグストア店舗への顧客の来店頻度が高ければ、上述した単純接触効果も高まることは自明です。
また前回、患者様が待ち時間を無駄にせずに買い物ができる利便性も、ドラッグストアと連携するメリットの2点目として説明しました。この点においても、購入頻度が高い食品などを多く扱っているドラッグストア店舗のほうが、より患者様の利便性を高めるといえるでしょう。
既存店なら、自分の目で確かめることも大切
上のような情報は、各社の決算書その他の資料で調べることができます。しかし、そういった情報は、あくまで過去のものであり、また、平均値にすぎません。「現在」の「その店舗」の状況がどうなのかを知るには、やはり実際に自分の目で確かめてみるのが一番です。
連携を検討しているドラッグストア店舗があるなら、何度か足を運び、実際の来客状況などを調べてみることが大切です。できれば、朝・昼・夜の異なる時間や、平日・休日といった異なる曜日を見てみるとよいでしょう。
また、前回の記事では駐車場もドラッグストアと連携するメリットのひとつとしてお伝えしましたが、駐車場の広さや駐車台数も店舗により異なるので、クリニックが開業しても十分なスペースが確保されているか、実際の停めやすさはどうかなども確認しておきましょう。
想定診療圏と、ドラッグストアの商圏の一致
クリニック開業にあたっては「診療圏調査」も非常に重要ですが(記事『クリニック開院に必須の「診療圏調査」とはなにか…読み方の基本を解説』参照)、ドラッグストアの併設・隣接で開業するのであれば、自院の診療圏と、ドラッグストアの商圏に大きなズレがないかも確認しておきましょう。
たとえば、診療圏が比較的広域となる診療科(眼科、耳鼻咽喉科、脳神経外科など)の開業を予定しているのに、ドラッグストア店舗が小規模で、商圏が想定診療圏よりも狭いと、集患という観点からは、連携するメリットが少なくなります。
逆に、内科のように診療圏が狭く、家の近くに通いたい患者様が多い診療科の場合、大型のドラッグストアやショッピングセンターの中にクリニックがあり、駐車場からかなり歩かなければならない、といった立地だと利用しにくくなります。
ドラッグストアの商圏は自院の主な診療科目にあっていることが大切で、狭すぎても、広すぎても不適切なのです。
将来の撤退リスク
ドラッグストアとの連携を検討する場合に、多くの先生が気にされるのが「もしドラッグストア店舗が撤退したらどうなるのか?」という点です。
実際、ドラッグストアチェーン同士のM&Aによる統合・業界再編は進行しています。2024年2月も、業界首位チェーンと2位チェーンが、それぞれの株式を大量保有する国内大手流通企業の主導により経営統合の検討に入ったという報道がありました。こういったチェーンの経営統合があれば、経営効率化のために既存店舗の整理が実施される可能性もあるでしょう。連携していたドラッグストアチェーンが吸収・合併される側であれば、経営方針がガラリと変わってしまうことも考えられます。
将来を確実に見通すことはできませんが、過去、M&Aによる買収を積極的に実施してきたチェーンや、退店実績が多いチェーンの場合は、今後も同様に、M&Aによる再編や、既存店の退店が多いことが予想されます。
コスモス薬品の場合、過去にM&Aを実施したことはありません。また、2023年の実績退店数、2024年の予想退店数ともに、他チェーンと比べて非常に少ない数となっており、その少ない退店も全てが、「スクラップ&ビルド」という古くなった店舗を同一敷地や近接地に新しく建て替える為の退店です。ここから、将来においても店舗撤退のリスクは相対的に低いと見込まれます。
まとめ
現代のクリニック開業においては、ドラッグストアチェーンと連携し、その敷地内や隣接地を開業地に選ぶことは、多くのメリットをもたらします。
しかし、ドラッグストアチェーンならどこでも同じというわけではありません。自院の診療科や目指す診療のあり方なども踏まえ、適切にドラッグストアと連携していただくために、本記事がヒントとなれば幸いです。