コロナ禍を機に、就職先として「公務員」を検討する学生が増加傾向にあります。志望理由として多いのは「地元に貢献したいから」「安定した職業だから」などですが、これらの見解は、果たして事実に即しているのでしょうか? 山内太地氏・小林尚氏の共著『やりたいことがわからない高校生のための 最高の職業と進路が見つかるガイドブック』(KADOKAWA)より一部を抜粋し、見ていきましょう。本稿では、年間約150回の進路講演を実施する山内太地氏が回答します。
それなら〈公務員〉志望はやめておけ…進路指導のプロ、「地元に貢献したいから」「安定しているから」に“ド正論回答” (※写真はイメージです/PIXTA)

「公務員=安定した職業」は本当か?

地方の高校生の話を聞くと、「公務員になりたい」という人がとても多くいます。ほとんどは警察官や消防官ではなく、市役所や県庁といった地方公務員です。志望理由は「地域の役に立ちたいから」とみな口をそろえて言いますが、本音は地方公務員が民間企業のように厳しい競争にさらされることや浮き沈みのない「安定した職業」だと思っているからです。ところで、公務員って本当に安定しているのでしょうか?

 

地方公務員志望のみなさんの多くは、自分の住んでいる町が衰退して疲弊していることは、高校の探究学習で知っているはずです。地域の人口がずっと減少していることも、これからもっと減ることも知っているはずです。あなたが40歳の公務員になる頃に、あなたの町はどうなっているでしょうか?

 

日本は生産年齢人口が減り続けています。いわゆる人手不足です。さらに、高付加価値の新しい先端産業が生まれる可能性も低く、自治体は税収が増えません。あなたがなりたい公務員、県庁や市役所は貧乏なのです。多くの自治体は政府から地方交付税交付金*をもらわなければ財政難で自治体の維持すらできません。下手をすると水道や公共施設のインフラも維持できないのです。すでに、財政難から公共施設を削減する自治体まで現れています。

 

(*地方交付税交付金:地方自治体の格差調整のため、国から支給されるお金。)

 

町中の人はお金がないのに、公務員だけが安定した給料をもらうと市民から恨まれます。今後、自治体職員の給料が劇的に上がる可能性はほとんどありません。「公務員で地域の役に立てれば、高い給料など求めない」とあなたは言うかもしれません。

 

では、公務員になったあなたは本当に地域を豊かにできますか?

 

これからの公務員は、放っておいたら人口が減少し税収が減りインフラも維持できなくなる自治体の衰退を食い止めないといけないのです。

公務員こそビジネスマインドが必要

安定だけを求めるなら公務員になってはいけません。現状維持は衰退なのです。

 

地域を豊かにできる、税収を増やせる、人口を維持できる、高付加価値の新産業を生み出せる、衰退する地域で頻発するさまざまな問題を解決できる。公務員にこそ、「ビジネスマインド」が必要になってきます。

 

都会の先端的な産業でバリバリ活躍できるぐらいの力をもって地域に貢献できる。そんな公務員でなければ、必要とされません。安定を求めている人、何もできない人、市長や上司に言われたことだけをやる人、人口と税収が減る故郷をボーッと眺めながら、地元民間企業で働く人よりも給料が高い人、そんな公務員はいらないのです。

地元に貢献したいのなら、公務員以外の方法もある

自分の故郷が好きで、地域に貢献したい気持ちはわかります。しかし、商店街の活性化を図ろうがショッピングモールができて、地域のお祭りをPRしようが参加者が減っていく町で、あなたが高校でやっている探究学習の地域おこしは、根本的な解決にはなりません。まず、いったん、「地元国立大学に行って地方公務員になる」というルートを疑ってください。ほかの道を探してください。

 

高度な職業専門性を身につけて、都会の会社で人脈をつくり、何者かになってから故郷に帰ってきて、新しい産業をおこし、売上を伸ばし、地元の人を従業員として雇い、ほかの地方、特に都会からも魅力を感じて人が集まるようにして、地元自治体にたっぷり税金を納めて故郷に貢献するのも、あなたが本当に愛する故郷にできることではありませんか? 地方にはそうした企業もあります。市役所、県庁ではなく、まずはそうした産業や企業を調べてはいかがでしょうか。

 

そして、そうした会社の多くは製造業や情報通信産業ですから、理工系の大学に行くことも検討すべきです。観光だけで豊かになっている地域はほとんどありません。

 

というわけで、「安定しているから公務員」という人には「高付加価値の先端産業をつくって地域の税収を増やす」という選択肢“も”僕は提供します。

目指すなら「従来のような公務員」でなく、「先端産業を自らつくる公務員」を

公務員志望だと法学部や経済学部を考えがちですが、あえてここは工学部、そして農学部も新しい産業を生み出せる学問です。あるいは、そうした理系人材と組めるような総合大学に行く。

 

地元を愛するからこそ都会や他県の大学に行って学ぶ。江戸時代の維新志士は江戸や長崎まで学びに行ったでしょう? アメリカでもヨーロッパでもオセアニアでもアジアでも行けばいいのです。日本が失敗している面で成功している国も多くあります。自分たちの国がいちばん豊かで偉いという誤ったおごりを捨て、明治維新のときの日本人のように海外の先進事例から真摯に学ぶのです。自分に、自分の国に何が足りないのかをもう一度気づいて変わるしかありません。

 

海外留学も単なる語学留学ではなく、開発経済学や国際政治、コンピュータサイエンスなどの何か高度な専門性を意識した学びにトライしましょう。できればアルバイトではなくインターンシップを経験して海外で就業体験をするとよいでしょう。

 

そうして地元に帰ってくると、故郷の因習(いんしゅう)に阻(はば)まれて、好きなことができないことに気がつくでしょう。お役所の硬直化した体制や、地域で権力をもっている会社や組織、個人に阻まれて改革ができないなど、子どもの頃、高校で探究学習をやっているだけでは見えなかった、日本の地方の深刻な問題点です。これらが数十年にわたって地域を衰退させてきています。

 

安定を求めて公務員になってしまった将来のあなたが、古いシステムの居心地のよさに取り込まれ、都会や海外からせっかく来てくれた新しいことをやりたい人、東京から故郷に戻ってきてくれた人の足を引っ張り、失望させないことを切に望みます。誰もそんなことは望んでいないのに、なぜか地方ではそんなことばかり起きています(もちろん、成功事例もいっぱいあります)。

 

地域の役に立ちたいあなたが学ばなければいけないことはいっぱいあり、それを実現できるのは必ずしも公務員という道だけではありません。仮に公務員を目指すとしても、今までのような公務員ではダメだということは感じてほしいです。

 

 

山内 太地

教育ジャーナリスト、学校経営コンサルタント、教育系YouTuber

 

1978年岐阜県生まれ。東洋大学社会学部卒業。理想の大学教育を求め、日本全国約800大学をすべて訪問。海外は14ヵ国3地域約100大学を取材した「大学マニア」。大学・高校の経営コンサルティング業も行い、全国の高校で年間約150回の進路講演を実施。YouTubeチャンネルの総再生数は2,100万回を超える。

著書は『偏差値45からの大学の選び方』(ちくまプリマー新書)、『やりたいことがわからない高校生のための 最高の職業と進路が見つかるガイドブック』(KADOKAWA)など多数。