Q. 偏差値の低い大学や無名大学に入ったら就職できないの?
⇒A. 就職できるかできないかは、大学名ではなく自分次第
たとえ有名大学に入学できなくとも、就職はできます。ただし、誰もがうらやむ一流企業の社員や公務員になろうとすると、少し難しくなってくるというだけです。不可能ではありません。
中学受験から高校受験、そして大学受験まで、みなさんは「学力が高い人が偉い」という価値観の中でずっと戦ってきました。高校などは序列の最たるもので、どの地方でも、東京大学や医学部を目指すような地域のトップ高校、首都圏・関西圏なら有名私大、地方なら地元国公立大を目指す二番手高校(自称進学校)、中堅私大を中心に目指す高校(今や半分近くが推薦)、学力競争を重視せず、就職や専門学校など多様な進路を目指す高校と、なんとなくの序列ができているはずです。
小学校や中学校では個性や能力ではなく学力だけで進学先を仕分けされるので、あたかもそれが人間の価値を決めてしまうかのように思いがちですが、大学への進学では少し状況が変わってきます。すでに、点数の競争や学力による受験方式は、大学入学者の半数を切っているからです。
さすがに国立大は一般選抜が8割ですが、東北大学、筑波大学、お茶の水女子大学、名古屋大学、神戸大学、九州大学ですら、大学入学共通テストなしで、書類選考や小論文、面接などで受験できます(だから簡単というわけではありませんよ)。公立大も推薦が3割に達し、共通テストが必要なかったり、評定平均が求められないなど、非常に挑戦しやすくなっている大学もあります。私大に至っては、早稲田大学、慶應義塾大学、同志社大学などですら、一般選抜が半分しかいない学部が続出しています。もちろん、これをチャンスととらえて有名大学を目指すのもよいですし、有名大学ではなくても、自分を磨いて、なりたいものになることは可能なのです。
偏差値が低い大学や無名大学に入ってしまったら就職できないと考えるのは、自分の個性や能力に価値がないと自分で言っているようなもので、そんな人が就職で選ばれないのは当然です。あなたが憧れるインフルエンサーや芸能人は大学を卒業していない人もいるでしょう? でも活躍していますよね。それは、仕事の能力が高いからです。あなたもそれを大学で身につければ、臆することはありません。
大学名だけで人生は決まらない
問題は、偏差値が低い大学や無名大学ほど、学力を問わない入試になってきていることです。有名大学が推薦半分といっても、附属高校や指定校で学力の高い有名高校の出身者をかき集めていたり、総合型選抜でも要求水準が高くて、優秀な学生が集まっている可能性が高い。受験難度が下がってくるにつれ、学力も能力も特に優れていない学生が、推薦で大量に入学してくる大学が存在します。そうした大学の学生を大企業が就職で厳しく選別するから、就職でも大学の序列があるように見えるのです。
いまだに大学名で選んでいる企業もありますが、そうした会社は文句を言ってもなくなることはないので、無名大学の人は別の会社を選べばいいだけです。議論してもしょうがないと僕は考えています。
偏差値が低い大学や無名大学に入ってしまったら就職が難しいと考える人もいるかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか。
たとえ偏差値が低い、無名とされる大学に入ったとしても、立派な教授はいるし、就職課(キャリアセンター)が就職を支援してくれます。あなたにやる気があればいくらでも逆転できるのです。大学が無名だからいい会社に入れないというのは、自分に能力がないのを棚に上げて大学のせいにしているだけです。どんな大学でもいい会社に入れた先輩はいるはずで、その人はどんな大学生活を送っていたのか、大学の教職員の人に聞いてみればいいでしょう。そして、自分もそのように生きるのです。
社会人になったら、学歴よりも「実力」が問われる
就活は「建前上は」平等です。昔のように「特定の大学から何名」という採用は「表向きは」存在しません。
本来の意味の「学歴」なら、大卒というのは東大もその他の大学も同じで、大学院まで出た人のほうが「学歴が高い」のです。どうでもいいことではありませんか。他人がつくったルールに振り回されるのはやめましょう。大事なのは学歴よりも仕事の実力です。
名古屋の信用金庫の新入社員に、名古屋大学、名古屋市立大学、南山大学、愛知大学、中京大学、名城大学、愛知学院大学、名古屋学院大学、名古屋商科大学出身の学生がいるとして、名古屋学院大や名古屋商科大出身者がバリバリ活躍して支店長になることだってあるわけです。学歴も大学名も問わず実力主義の会社もあります。それはそれで待遇面で課題が多い会社もあったりするので、よく調べる必要はありますが…。
社会で求められるのは、受験学力より「仕事能力」
多くの人は、有名高校、有名大学に入れる人が偉いと思いがちですが、彼らは偉いのではなく受験学力が高い人です。「出された問題を解く力がある人」で、クイズ王です。それは、社長や市長に言われた仕事を迅速にこなす能力をはかる点ではたしかに重要ですが、人口が減り、売上が落ち、給料が下がる時代に、そういう人だけでは太刀打ちできません。
自分で問題を発見し、正解がない問題を試行錯誤しながら解ける人が、仕事の能力が高い人で、今後はこちらの能力も極めて重要になるでしょう。だから国立大も難関私大も総合型選抜を実施して、「学力のある人」だけでなく、「学力だけでなく能力が高い人」にチャンスを与えているのです。何でも点数だけで全部が決まる大学受験だった親世代に比べれば、はるかに多くの可能性が広がっています。
一方、偏差値が低い大学や無名大学に価値がないわけではありません。入学した大学を有効に活用し、大いに羽ばたくことができるのです。就職で逆転もできます。
まずは、「あなたは大学受験でベストを尽くしましたか? その結果がこの大学なんですか?」と言われたときに、「自分は大学時代にベストを尽くしました。こう学びました。こんな成果を出しました。だから会社に貢献できるんです。採用してもらう価値があるんです」と胸を張って言えるような大学生活を送ってほしいですね。
山内 太地
教育ジャーナリスト、学校経営コンサルタント、教育系YouTuber
1978年岐阜県生まれ。東洋大学社会学部卒業。理想の大学教育を求め、日本全国約800大学をすべて訪問。海外は14ヵ国3地域約100大学を取材した「大学マニア」。大学・高校の経営コンサルティング業も行い、全国の高校で年間約150回の進路講演を実施。YouTubeチャンネルの総再生数は2,100万回を超える。
著書は『偏差値45からの大学の選び方』(ちくまプリマー新書)、『やりたいことがわからない高校生のための 最高の職業と進路が見つかるガイドブック』(KADOKAWA)など多数。