働いている間は年金を受け取らず、受取額アップを狙う……そんな思いから「年金の繰下げ」を選択するケースも多いといいます。しかし年金の繰下げ中に亡くなると、遺族は思いもよらぬことに直面することも。みていきましょう。
夫婦で「月23万円」、5年待てば年金だけで暮らせるはずが…69歳夫の急逝に妻号泣、悲しみに追い打ちをかける「繰下げ受給」の勘違い

年金の繰下げで「年金だけで暮らせる」を実現する

総務省『家計調査 家計収支編』(2023年平均)によると、65歳以上の夫婦のみ世帯の1ヵ月の生活費は25万0,959円。一方で、政府がモデルとする典型的な高齢者夫婦の1ヵ月の年金額は月23万0,483円です。年金の手取り額で考えると、毎月5万円ほどの赤字となり、貯蓄などで補填しなければ、“平均的な老後”を実現するのはムリ、ということになります。

 

老後の生活費が足りない、という場合、どうすればいいのか……最も簡単な方法は働いて収入を得ることでしょう。総務省『労働力調査』によると、2022年、65歳以上の就業率は25.2%。60代後半では50.8%と2人に1人、70代前半では33.5%と3人に1人、70代後半以上で11.0%と10人に1人の水準。いまや働く高齢者は、珍しい存在ではありません。

 

もちろん、すべてが「生活費のため」に働いているわけではなく、「健康のため」「生きがいのため」など、ポジティブな理由で働くことを選んでいる人もいるでしょう。一方で「年金では生活費が賄えないから」「貯蓄が足りないから」「漠然と生活費が心配だから」など、「お金の心配・不安」から働いている人も相当数にのぼります。

 

そして給与で生活費を賄える場合に推奨する専門家も多いのが「年金の繰下げ」。これは原則、65歳からもらえる年金を、希望により66歳~75歳までの間に受け取る制度。1ヵ月年金の受け取りを遅らせることで、年金の受取額は0.7%アップ。75歳まで繰り下げると、最大84%になります。

 

たとえば、先ほどのモデル夫婦。夫は65歳以降、働いている間は年金をもらわずに繰下げをしたとしましょう。夫の年金額は月16万円ほど。1年繰り下げれば月17.3万円、3年繰り下げたら月20万円、5年繰り下げたら月22.7万円になります。手取りで考えると、70歳まで繰り下げると、年金だけで生きていける程度の水準になりそうです。

 

――働いているうちに年金が増える……利用しない手はないじゃない

 

そう思っているのか、繰下げ受給を選ぶ人は数は少ないですが、確実に増えています。