工場や物流倉庫、飲食店など、今日では私たちの身の回りのさまざまな場所でロボットが活躍していますが、いまとくにロボットの普及が待ち望まれているのが「介護」の現場です。「介護離職」がもはや社会問題となっている日本では、今後も人口の高齢化に伴う要介護者の増加が見込まれており、介護者の負担を軽減するためのロボットの開発は急務といえます。本稿では、介護の領域ですでに活用が始まっている商品・サービスの事例をみながら、ロボットが介護のどのような課題を解決できるのかについて考えます。
輪の中心で運動・合唱を先導し、一人暮らしの高齢者を見守る…「介護の現場」で働く最新ロボットたちの実力 (※写真はイメージです/PIXTA)

会話やレクリエーションを担当する人型ロボット

(出典:富士ソフト)
レクの時間、輪の中心で健康体操を行うロボット『PALRO』 (出典:富士ソフト)

 

このほか、介護施設で活用されているロボットの例としては、身長約120cmの人型ロボット『ペッパー(Pepper)』(ソフトバンクロボティクス)や、デスクトップサイズの人型ロボット『PALRO(パルロ)』(富士ソフト)などが挙げられます。いずれも要介護者と会話し、レクリエーション(レク)の時間に健康体操やダンス、ゲームをすることができます。

 

多くの介護施設では、要介護者の健康寿命延伸をめざし、レクの時間が毎日設けられており、体操や合唱などが実施されていますが、その内容を考えたり、中心で見本となる体操をしたりというのは介護スタッフの仕事。スタッフが要介護者につきっきりで支援している施設も少なくありません。

 

そこで、毎日新しいレクの内容を考えたり、輪の中心で体操や合唱を先導したりする作業をロボットに任せて、必要な要介護者だけをスタッフが見守ることで負担を減らし、空いた時間でスタッフはほかの重要な作業を行うといった効率化が図られています。

 

また、会話によるコミュニケーションは認知症の予防効果などが期待できるため重要ですが、同じ会話や質問が何度も続くなど、会話業務もスタッフには負担となるケースもあります。

 

しかし、ロボットなら同じ会話を要介護者が繰り返しても苦には感じません。

 

ロボットは昭和初期の話など、要介護者が楽しめる話題を持ちかけたり、当時の街の写真や風景の絵などを画面に写したりして会話を進める手法を取り入れていますが、これは要介護者にとって昔のことを思い出そうとすることが脳の活性化につながるという説もあるためです。

 

なお、会話ロボットは最新の大規模言語モデル「ChatGPT」によって会話能力が格段に向上しています。

 

24年2月には、ソフトバンクロボティクスがPepperの介護向けモデル(Pepper for Care)を対象に「ChatGPT」に対応して会話アプリをリリースしたことを発表しています。具体的にアップデートしたのは、介護施設向けに独自開発したゲームで、歌や体操など豊富な種類のレクリエーションを提供する『まいにちロボレク』と、顔認証によって個人に特化したリハビリを提供する『まいにちロボリハ』です。

 

アップデートによって、一人ひとりに合わせて、より高精度で自然な会話ができるようになります。脳の健康維持や将来の認知症リスクを低下するとともに、施設スタッフは要介護者との会話をPepperに任せ、ほかの業務に専念できるようになることが期待されています。