工場や物流倉庫、飲食店など、今日では私たちの身の回りのさまざまな場所でロボットが活躍していますが、いまとくにロボットの普及が待ち望まれているのが「介護」の現場です。「介護離職」がもはや社会問題となっている日本では、今後も人口の高齢化に伴う要介護者の増加が見込まれており、介護者の負担を軽減するためのロボットの開発は急務といえます。本稿では、介護の領域ですでに活用が始まっている商品・サービスの事例をみながら、ロボットが介護のどのような課題を解決できるのかについて考えます。
輪の中心で運動・合唱を先導し、一人暮らしの高齢者を見守る…「介護の現場」で働く最新ロボットたちの実力 (※写真はイメージです/PIXTA)

一人暮らしの高齢者をロボットとオペレータ、家族が連携して見守る

(出典:セコム/DeNA)
ロボット、オペレータ、家族が連携して一人暮らしの父母を見守るサービス『あのね』。セコムとDeNAが提供している。 (出典:セコム/DeNA)

 

高齢社会では、介護施設だけでなく、一人暮らしの高齢者をどう見守るかという課題も見逃せません。

 

23年4月、警備会社のセコムと、「エンタメ×社会課題」を事業の主軸とするDeNAは共同で、ロボットを用いてシニアの孤独を解消するサービス『あのね』の提供を開始しました。セコムとDeNAがシステムを開発し、DeNAのオペレータセンターと24時間365日体制で連携しています。

 

同サービスに使用されるのは、ユカイ工学株式会社の小型のコミュニケーションロボット『BOCCO emo』(ボッコ エモ)。もっとも想定されるユースケースは、離れて暮らす高齢の父母にコミュニケーションロボットをプレゼントして、ロボットとオペレータ、家族が連携して見守ろうというものです。

 

(筆者撮影)
ユカイ工学のコミュニケーションロボットのBOCCO emo。使いやすさを考慮してボタンには操作内容が大きな文字でかかれている。 (筆者撮影)

 

会話が減りがちな高齢者に対し、まずはロボットが挨拶することで会話を促し、加えて服薬管理や各種リマインダーをロボットと連携したシステムが支援して自動で行います。

 

さらに、ロボットはオペレータセンターとつながっているため、ロボットの挨拶に利用者から言葉が返ってきた場合はコミュニケーターが内容に応じて返信します。また、会話についてもスタッフがロボットを通じて遠隔で行えるため、困りごとなどの相談にも心の通った言葉を届けられます。

 

(出典:セコム/DeNA)
『あのね』のロボットと利用者の会話例。ロボットは音声で読み上げる。最終の「手動メッセージ」はオペレータによるもの。 (出典:セコム/DeNA)

 

プライバシーへの配慮から、ロボットにカメラはあえて搭載していませんが、BOCCO emoにはスマートフォンなどと同様に通信用SIMカードがセットされているため、ロボットを通して家族との通話も楽しめます。Wi-Fi環境は不要であり、ロボットが配送されたらすぐに使い始められる点も便利です。

 

セコムとDeNAは報道関係者向けの発表会で「高齢化の進展に伴い、一人暮らしの高齢者の数は年々増え続けています。

 

独居高齢者の約半数は2~3日に1回以下しか会話をしていないというデータが内閣府『高齢者の健康に関する調査』(平成29年度)にあり、孤立が続くと認知機能や身体機能の低下をはじめとしたリスクにつながる恐れがあることから、早期の対策ソリューションが必要と考えました。

 

いつも誰かとつながっている安心を感じていただきながら、孤独の解消を図り、リスクの低減をめざします」と語りました。

 

一人暮らしの高齢者を見守るだけでなく、認知症予防・健康寿命延伸のためにも、ロボットやICTが活用されているのです。

 

-----------------------------------------------------

<著者>
神崎洋治

TRISEC International代表取締役
ロボット、AI、IoT、自動運転、モバイル通信、ドローン、ビッグデータ等に詳しいITジャーナリスト。WEBニュース「ロボスタ」編集部責任者。イベント講師(講演)、WEBニュースやコラム、雑誌、書籍、テレビ、オンライン講座、テレビのコメンテイターなどで活動中。
1996年から3年間、アスキー特派員として米国シリコンバレーに住み、インターネット黎明期の米ベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材した頃からライター業に浸る。
「ロボカップ2018 名古屋世界大会」公式ページのライターや、経産省主催の「World Robot Summit」(WRS)プレ大会決勝の審査員等もつとめる。著書多数。