日本の公的年金制度。細かな決まりごとが多く、知っていると知らないでは、大きな差となることも珍しくはありません。今回は年金の「遺族年金」について考えていきます。
子のいない夫婦の悲劇…年収1,000万円・45歳夫が急逝、悲しみに暮れる妻を追い詰める<夫の過去>【遺族年金がもらえない4つのケース】

夫を亡くした妻にさらなる悲劇…「遺族年金」がもらえないケース、4つ

残された家族を支えてくれる遺族年金ですが、もらえないケースがあり注意が必要です。遺族年金がもらえない、4つのケースをみていきましょう。

 

遺族年金がもらえないケース.1「子のいない夫婦」

会社員の夫(45歳)と妻(43歳)。子宝に恵まれることはありませんでしたが、幸せに暮らしていました。ところがある日、夫は仕事先で倒れ、そのまま帰らぬ人に。泣き叫ぶ妻に、さらに辛い事実が突きつけられます。妻は遺族基礎年金を受け取れないのです。

 

遺族基礎年金の受給対象者は、「①子のある配偶者」「②子」で、子は18歳になった年度の3月31日までにある人、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある人をさします。そのため、子のいない夫婦の場合、遺族基礎年金の受給対象外となります。

 

一方で遺族厚生年金は「子のいない配偶者」も受給対象者。ただし30歳未満の妻の場合は5年間のみ受給でき、子のない夫は55歳以上の場合のみ受給できます。

 

遺族年金がもらえないケース.2「厚生年金の加入歴がない」

先ほどと同じく、夫(45歳)と妻(43歳)、子のいない夫婦。夫はフリーランスで活動していて、収入は1,000万円を超えるほど。ただ昼夜問わず仕事で忙しく、体力的にかなりきつそうでした。そんなある日、夫は体調を崩し、急逝してしまいました。

 

1のケース同様、「子のいない夫婦」なので、遺族基礎年金をもらうことはできません。さらに亡くなった夫に厚生年金の加入歴がない場合は、妻は遺族厚生年金ももらうこともできず、公的な保障はほぼなしということになります。

 

遺族年金がもらえないケース.3「年金保険料に未納がある」

夫(50歳)、妻(45歳)、子(21歳)。夫は大学卒業後、会社員を続けてきましたが45歳のときに脱サラ。念願の飲食店を出店。最近になって経営は軌道にのり、年収は1,000万円超え。「2号店を出そうかな」と夢を膨らませていた矢先、夫は亡くなってしまいました。

 

この場合、子は20歳を超えているため、遺族基礎年金はもらえません。また亡くなった夫は厚生年金の加入中ではないため、遺族厚生年金の短期要件に該当しません。さらに年金事務所に行ったところ、夫には国民年金を滞納している時期があることが判明。保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上という厚生遺族年金の長期要件にも該当しなくなり、悲しみに暮れる妻は、「遺族年金ゼロ」というまさかの事態に直面することになります。

 

遺族年金がもらえないケース.4「パワーカップル」

先ほどと同じ、夫(50歳)、妻(45歳)、子(21歳)という家族構成。夫婦は共に大企業に勤め、責任ある管理職という立場。収入もともに1,000万円を超える、いわゆるパワーカップルと呼ばれる2人です。余裕のある暮らしぶりは周りも羨むほど。しかしある日、夫は急逝。悲しみに暮れる妻に、「遺族厚生年金はもらえない」という事実が突きつけられます。

 

収入が1,000万円を超える妻は、生計維持の収入要件を満たしておらず、遺族年金は受け取れません。前述のとおり、遺族年金は生計を維持されている遺族が受けることができる年金です。遺族の前年の収入が850万円以下、または所得が655.5万円以下であることが条件となります。

 

 

自身に万が一のことがあった場合に家族の支えになる遺族年金ですが、受給要件を満たさないという事態を避けるためにも、保険料の滞納などがある場合は、解消しておきたいところ。また公的な保障が受けられない場合は、ほかの方法で保障を考えておくことが重要です。

 

[参考資料]

生命保険文化センター『2022年度 生活保障に関する調査』

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』

日本年金機構『遺族年金』