肥満・脂肪肝専門外来である「スマート外来」。担当医の尾形哲氏は、「肝臓をいたわる食事は、脂肪肝だけでなく、糖尿病や脳卒中といった生活習慣病の予防にもなる」といいます。尾形氏の著書『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす食事術 予約の取れないスマート外来のメソッド』(KADOKAWA)より、実際のエピソードとともに肝臓の仕組みついて詳しく見ていきましょう。
肝臓から脂肪を落とすには
「では、由美さん。1ヵ月で体重を2kg減らすために、どうしましょうか?」
「食べる量を減らす……ことでしょうか」
「脂肪肝の改善に、体重を落とすことは有効な手段です。でも、痩せるために食事制限をするという考えはやめましょう。痩せて見た目がほっそりすることが、今の由美さんの目標ではありません。大切なのは肝臓をいたわること。肝臓をいたわる食事に変えれば、肝臓から脂肪が減ると同時に、減量もかないますよ」
「肝臓をいたわる……んですね。肝臓の脂肪を減らす方法、知りたいです。肉の脂あぶらや揚げ物を減らせばいいんでしょうか?」
先生は、肝臓にたまる脂肪の正体について説明してくれた。
「肝臓にたまる脂肪のうち、食事から摂った油や肉や魚などの脂が直接影響するのはわずか14%にすぎません。残りの86%は、体についている皮下脂肪と内臓脂肪が溶け出した脂が60%で、糖質から肝臓で合成される脂肪が26%です」
また「糖質」だ。だから、わからない。
「先ほども糖質とおっしゃっていましたが、糖質って体の中でエネルギーになって使われるんではないんですか? 脂肪との関係がよくわかりません」
「おっしゃるとおりで、糖質は私たちが活動するために重要なエネルギー源になるものです。でも、体の中で糖質が増えすぎると、肝臓はそれを中性脂肪という形でため込むんです。いざというときのために」
「いざというとき……?」
「飢餓状態になったときです。人間だけでなく生き物は飢餓状態に陥ったときにいかに生き延びるかという情報が遺伝子に組み込まれているんですね。だから、食料に困ってもすぐ死なないように、今は使わない分の糖質を肝臓に貯蔵しているんです。
でも、実際どうですか? 私たちは1日に3食しっかり食べ、飢餓に苦しむ状態になんてなりません。むしろエネルギー源を摂りすぎなんです。でも、肝臓はまじめで、食事から摂ったエネルギー源をムダにしないよう、健気にもため込んでくれているんです。由美さんのために」
「てっきり脂肪になるのは、肉とか脂なのかと……」
「そう思うのもムリはありません。学校では、糖はエネルギー源と教わりますから。糖の摂取が多すぎると脂肪として蓄積されて肥満になる事実を、そろそろ学校でもきちんと教える時代だと私も思っています」
そう言えば、私の母はあまり肉や揚げ物などとらないのに、なぜか中性脂肪が高いことを指摘されて悩んでいた。そうか、糖質が多かったに違いない!
糖質の多い食事がもたらす体への悪影響について、やっと理解が追いついた。
肝臓にたまる脂肪は食べた「脂」からではない。脂肪に変わりやすい「糖質」を減らそう!
尾形哲
長野県佐久市立国保浅間総合病院
外科部長/「スマート外来」担当医