日本の公的年金制度。細かな決まりごとが多く、知っていると知らないでは、大きな差となることも珍しくはありません。今回は「年金の繰下げ受給」と「年金の壁」についてみていきます。
年金月10万円・65歳のおひとり様「繰下げ受給で年金増額」に歓喜も、3年半後に直面する「まさかの事態」

年金の繰下げで受取額アップのはずが…おひとり様は気をつけたい「155万円の壁」

年金の繰下げ受給で知っておきたいのが、年金が増えることで税負担が重くなる可能性がある、ということ。

 

いま巷でいわれている「年収の壁」ですが、これは年金収入に関してもあり、「年金211万円の壁」などと耳にしたことはないでしょうか。これは「住民税非課税世帯」となる境界線で、それにより税金や社会保険料の負担が変わります。またこの211万円というのは、夫婦の場合の境界線であり、単身者であれば「155万円」となります。また境界線は地域によって代わり、155万円は大都市などの1級地の場合で、中核都市などの2級地では152万円(夫婦の場合は203万円)、それ以外の3級地では148万円(夫婦の場合は193万円)になります。

 

たとえば、65歳からの年金が月10万円、大都市に住むおひとり様。原則通り年金を受け取れば、所得税や住民税はゼロです。2年5カ月繰り下げて68歳5カ月から年金を受け取ると、1年の年金収入は154万4,400円なので、ギリギリセーフ。所得税や住民税はゼロです。2年6ヵ月繰り下げて68歳6カ月で年金を受け取ると、1年の年金収入は155万2,800円となり、住民税は7,200円(東京の場合)ほどかかることに。社会保険料なども考えると、手取り額が逆転すると考えられます。

 

このように、年金の繰下げ受給は確かに年金の受取額を増やすことはできますが、タイミングによっては「手取り額の逆転現象」が起きます。専門家のアドバイスなども参考にしながら、個々でベストな受取りのタイミングを探っていくことが肝心です。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』

日本年金機構『年金の繰下げ受給』