原則、65歳から受け取ることができる年金。しかし、65歳になれば自動的に受給できるわけではなく、手続きや申請が必要です。たとえば、「特別支給の老齢厚生年金」は、60代前半に受け取る年金で、受け取りの「時効」も存在することはご存じでしょうか? 本記事では、Aさんの事例とともに年金受給の際のさまざまなルールについて、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
昭和33年生まれの63歳・元会社員男性、年金を〈繰下げ受給〉で増やそうと放置も…2年後、年金事務所職員「延滞税がかかります」に狼狽【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

年金の受け取り方に要注意

Aさんは昭和33年生まれですから、本来、特別支給の老齢厚生年金は63歳から65歳になるまでの2年分が受給できるはずでした。慌てて年金事務所に飛び込み、時効前でしたから、この2年分を一括で受け取ることに成功しました。

 

えっ、延滞税?

しかし、大きな問題が発生したのです。年金を一括受給した場合には、過去に行った確定申告の修正申告をしなければならない、ということです。

 

修正申告を行って過去の各年分の所得税を納めなければならず、さらに大きな金額にはなりませんが延滞税まで納めないといけない、と年金事務所の職員から告げられたAさんは頭を抱えます。

 

これには驚かれる方も多いでしょうが、「受給を遅らせることで納税を先送りする行為」とみなされる、というが理由です。これを不服として延滞税の取り消しを求める裁判を起こした人がいましたが、請求が棄却されたという事実が2015年にあります。Aさんは2年分でしたが、こういった点からも請求手続きは早めに行いましょう。

 

なお、65歳から受給できる老齢基礎年金や老齢厚生年金についても同様です。受け取り方法は、

 

1.65歳から受け取る。
2.繰り上げ返済・繰り下げ返済で受け取る。
3.65歳を過ぎてから手続きし、過去の分(時効により5年分まで)をまとめて受け取る。

 

という方法があります。(3)の場合に数年分をまとめて受け取ろうとすると、Aさんの例と同様に修正申告や延滞税といった問題が起きてきますので注意しましょう。

もらい忘れの多い「企業年金」

ほかにももらい忘れのある年金に企業年金があります。会社の退職金には、退職時に一時金で受け取るほかに、一部を企業年金として受け取る場合があります。こちらも申請しなければもらうことはできません。

 

企業年金連合会から事前に通知が来ると思いますが、結婚により住所や名字が変わってしまった場合は本人特定も難しくなり、わからない場合もあります。思い当たる人は企業年金連合会等に問い合わせるのがいいでしょう。

 

なお、企業年金の「基本年金」「代行年金」についても65歳以降の受給期間分を66歳以降に繰り下げて増額して受給することができます。ただし、国の老齢厚生年金の繰下げが前提条件になりますので、日本年金機構と連合会の両方で手続きが必要となります。

 

前述の特別支給の老齢厚生年金を受給後に、65歳以降の年金について繰り下げ受給を希望する場合、国の老齢厚生年金は手続きをしなければ自動的に年金の支給はストップするのですが、企業年金の部分については65歳以降も継続して支給が続いてしまいます。

 

繰下げ受給を希望する場合は企業年金への手続き((繰下げのための)支給停止申出書 の提出)をしないと、継続して受給した分の年金が過払いとなり返還が求められる場合もありますので、手続きを忘れないようにしてください。

 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表