定年後の生活について、不安を抱いたことがあるという会社員は多いでしょう。そこで、『ただの人にならない「定年の壁」のこわしかた』(マガジンハウス)の著者で公認会計士の田中靖浩氏が「老後の金銭的な不安」を解消すべく、“貯金”でも“投資”でもない「新たな選択肢」を紹介します。
定年までに蓄えはいくら必要?「老後2,000万円問題」を解決する“貯金”でも“株式投資”でもない「第3の選択肢」【公認会計士が解説】
「2,000万円問題」が話題になった理由
みんなもともと「定年までにいくら貯めればいいのか?」について関心があったのです。なぜなら「定年から先は仕事しない」と思い込んでいるからです。
会計的にこの「2,000万円不足」は極めて正しいです。
定年後、収入(年金等)と支出(生活費)を比較して月に5.5万円の不足があるとすれば、貯金等を取り崩しながらの生活になります。それが定年後30年続くとすれば、取り崩し合計は約2,000万円──と、これは小学生レベルの計算です。
計算上は定年時までに「不足する合計額」の貯金等を用意すれば問題解決しますが、それはあくまで「計算上の解決」にすぎません。それで幸せに生きられるかといえば、これはまったく話が別です。
皆さん、想像してください。年金収入で生活費をまかないつつ、不足する分は貯金を取り崩して暮らす。そんな倹約生活には向き不向きがあります。ちなみに私には無理です。ケチが大嫌いな私は節約しすぎで窒息してしまうかもしれません。旅に出ることもなく、毎日部屋でゴロゴロしながら貯金残高が減るのを眺める日々はもはや拷問です。
さらに耐えられそうにないのが「無職」の前提。これはお金の問題ではありません。仕事することが何より好きな私にとって「定年後は無職=仕事をしない」状態は地獄です。ストレスが溜まって本屋で怒鳴るクレーマーになってしまいそうです。
貯金と株式投資では手に入らない「人とのつながり」
老後のために「貯金」や「株式投資」を行うのはすばらしいことです。それに加えて私は第3の選択肢として「定年後も働く」ことを提案します。
サラリーマン・公務員の皆さんは「自分には無理だ」と思われるかもしれません。もちろんフリーランスとして働くことには性格的な「向き・不向き」があります。性格さえ向いていればなれるものではなく、そこには努力も必要です。しかも準備には時間もかかります。その意味で「誰にでもできる簡単なお仕事です」というものではありません。
しかし、もし定年後にフリーランスとして働けるようになれば、貯金や株式投資では手に入らない財産が手に入ります──それは「人とのつながり」です。
老後に必要なものは「お金」だけではありません。それにも増して大切なのは身体と心の「健康」です。
年齢を重ねた人間にとって身体の健康を保つのが大切であるのは当然ですが、サラリーマンの方にとって心配なのは「心の健康」です。
必死に働いてきた定年前とヒマを持て余す定年後に差がありすぎ、心の健康を害してしまう例があまりにも多いのです。それを回避するには、できれば定年後もやりがいがある仕事で働くほうがいい。働くことさえできれば、ヒマは有意義な時間に変わり、孤独は「人とのつながり」に変わります。