日本古来より「神」と「酒」には深い関係があり、今もなお、神事には欠かせない「日本酒」。神社にも、全国の日本酒好きや醸造家たちから厚い信仰を集める「聖地」があります。葉石かおり氏の監修、近藤淳子氏の著書『人生を豊かにしたい人のための日本酒』(マイナビ出版)より、詳しく見ていきましょう。
日本三大「酒神神社」①松尾大社
日本酒好きなら一度は参拝したい、酒の神が祭られる「日本三大神社」をピックアップしましょう。
まず、有名な神社といえば、京都西京区の「松尾大社」です。5世紀後半、山城国に移住した秦一族は、比叡山と松尾山に祭られていた「大山咋神」を一族の総氏神と定め、開墾開拓に従事しました。その後701(大宝元)年、現在の地に社殿を建立したのが松尾大社のはじまりです。
平安京の遷都に尽力した秦一族は、遷都後、宮中での酒造りにも関わりました。その酒造りの技術が優れていたことから、一族の総氏神である松尾大社が「日本第一酒造神」と呼ばれるようになったのは室町時代以降のこと。江戸時代には、全国の醸造家から信仰を集めるようになりました。
境内に入ってすぐ目に飛び込んでくるのが、全国各地の蔵から奉納された酒樽が並ぶ圧巻の光景。日本酒ファンであれば、お気に入りの銘柄を発見したり、記念撮影をしたりと、気分が高揚する場所ではないでしょうか。同じ境内にある「お酒の資料館」では酒造りの基礎、歴史、文化などの展示もされています。
本殿の奥には、延命長寿、寿福増長などのご利益があるとして崇められてきた霊泉「亀の井」があり、別名「よみがえりの水」と呼ばれています。
かつて私は、10月1日の「日本酒の日」にこの場所に初めて伺いました。そこに佇んでいるだけで不思議と身も心も浄化されていくような穏やかな気持ちになったことを思い出します。醸造家たちの間では、蔵にこの霊水を持ち帰り、仕込み水に混ぜて酒造りをすると失敗しないといわれているようです。