日本酒の「甘口」「辛口」って?

ショートケーキのような砂糖の甘さ、スパイスカレーのような香辛料の辛さなど一般的な甘辛のイメージと、日本酒の甘辛はやや違っています。

日本酒の甘口は、華やかな香りやお米のふくよかな旨味を英語でシンプルに表現すれば「SWEET」。辛口は、スッキリとのど越しが良く、軽やかな「DRY」といえます。

「飛露喜」で確固たる地位を築いている廣木酒造本店(福島県)の蔵元杜氏、廣木健司さんに、甘辛について解説していただきました。

「例えば、舌触り(テクスチャー)だけでいうと、日本酒度※1はマイナスに向かい、甘口になるほどトロリとした舌触りになり、プラスの数値が高くなり、辛口になるほどサラリとなるイメージをもっています。ただ、甘辛の定義は日本酒業界内でもいろいろな意見があり、いまだに話が尽きないテーマです。実際に人が舌で感じる甘辛は、温度や酸度※2などにも影響を受けるので、日本酒度はあくまで一つの目安です」
※1 日本酒に含まれる糖分の比重を数値化。プラス(+)の数値が高いほど辛口、マイナス(-)の数字が大きいほど甘口の傾向にある。ただし、あくまでも目安
※2 日本酒に含まれる酸(コハク酸、リンゴ酸など)の量を示す。日本酒度が高くて酸度が低ければ淡麗辛口、日本酒度が高くて酸度が高ければ濃厚辛口という目安が立てられる。平均値は毎年変わる

なぜ、一つの目安でしかない日本酒度が採用されているのかについて廣木さんは、「日本酒度は、日本酒に比重計を入れるだけで測定できます。計測技術の乏しかった昔は、最も簡単で効率的に発酵具合を知る測定方法だったはず。それが全国に広がり、いまだに重宝されているのではないでしょうか」と推測。

日本酒度が使用され続ける意義について、改めて考えさせられます。

ちなみに「甘辛は、酒屋にとって永遠のテーマ。『辛口をください』とオーダーされるお客様が圧倒的に多いです」とおっしゃるのは、望月商店(神奈川県)の望月太郎社長です。

日本酒を販売する際には、まず、お客様の好みを聞き、甘辛のイメージを掘り下げるという望月社長。次に日本酒の場合はキリッとしたのが辛口、米の旨味があるのが甘口などの説明を加えていくのだとか。さらに自分用、プレゼント用、年代、普段飲んでいる酒類、どんなシチュエーションで飲むのかなども伺うそうです。

最後に望月社長は「嗜好品ゆえに答えは一つではないのですが、甘辛から日本酒の好みを見つけていただくのも面白いと思います」と締めくくってくださいました。

日本酒度だけでは測れない、甘辛の奥深さを知るきっかけになりましたら幸いです。