高度成長期、都市部の環境が悪くなっていく一方で、人口もぐんと増え全国で住宅が不足。そこで郊外に造られたのがニュータウン、夢を抱いて引っ越してきた多くの家族がいました。それから半世紀。そこには取り残された多くの高齢者がいます。なかには、生活苦に陥る人も。みていきましょう。
最期までいさせて…ニュータウンに夢見た「年金5万円・80代女性」市営団地取り壊しで退去要請〈家賃1万円アップ〉に悲鳴「生きていくのがツライ」

団地の建て替えで家賃1万円アップに悲鳴

そんな女性のもとに団地の取り壊しの連絡。

 

――周りの団地も建て替えが進んでいたから、いつか順番が来ることは分かっていたけど

 

いま住んでいる市営団地は、築50年ほどで、家賃は1万2,000円。年金が月5万円程度だという女性には、とてもありがたい金額だといいます。ただ団地にエレベーターはなく、女性が住む3階までは階段でのぼらなければなりません。ほかの設備も築50年近くなると、古いというよりも時代に取り残された感じがします。

 

アクセスの悪さに加えて、団地の老朽化。そのため若年層に避けられる……そのため全国のニュータウンでは再生計画が進められ、団地の建て替えが進められています。

 

女性の場合、建て替えられた真新しい団地に優先的に入居できる、ということですが、ひとつ問題が……

 

――家賃が1万円ほど増えるといわれました

 

優先的に入居できるという団地にはエレベーター付き、設備もイマドキで、確かに住み心地は良さそう。しかし、年金月5万円と、わずかな貯蓄を取り崩してなんとか暮らしているという女性。いま以上に出費が増えるのは、かなり痛いことです。そもそも余裕があれば「とっくの昔に子の街から出ていっている。バスも減り、お店も減って、不便ですから」と女性。

 

生活が成り立たない場合は、生活保護という選択肢もあります。年金への依存度が高い高齢者は生活苦に陥りやすく、2023年10月時点、生活保護を受ける160万ほどの世帯のうち、高齢者世帯が半分以上を占めています。

 

女性が住む市の場合、80代単身者の生活扶助基準額は6万8,820円、住宅扶助基準額は3万6,000円、合計となる生活保護費は10万4,820円。収入が生活保護費を下回っている場合、その差額が支給されます。ただし生活保護を申請する場合、貯蓄は国の定める最低生活費を下回っていないといけません。わずかとはいえ、生活費を充当する貯蓄がある女性が支援を受けられるのは難しいと考えられます。

 

――もう先が見えてますから、私。せめて最期までここにいたい

 

そんなことを願うも受け入れてもらえるはずはなく、結局、優先的に入ることのできた団地に引っ越したとか。家賃アップに、そして昨今の物価高。「生きていくのが、本当にツライ」という女性。同様の声は、収入が限られ、実質目減りが続く年金世代のあちらこちらから聞こえてきます。

 

[参考資料]

東京都整備局『多摩ニュータウンの統計指標』

厚生労働省『生活保護制度』

厚生労働省『被保護者調査』