クルマがなくては困る地方都市、活動しなければ衰えていく体……高齢者にとって本当に必要なものとは? 『60代からの見た目の壁』(株式会社エクスナレッジ)の著者で医師の和田秀樹氏の見解を紹介します。
「運転免許の返納」に「外出自粛」…国民の空気を読んだ“まじめな高齢者”の残念な末路【医師が警鐘】
「自粛要請」に従ったまじめな高齢者の末路
免許返納した高齢者はどうなってしまうのでしょうか。これには筑波大学の研究チームによるデータがあります。クルマの運転をやめて自由に移動する手段を失った高齢者は、運転を続けている人と比べて、要介護状態になるリスクが6年後には2.2倍になると発表されています。
高齢者の免許返納キャンペーンは、政府(警察庁)も後押ししていますが、いわば高齢者をヨボヨボにする政策の1つといえるのです。
もう1つ、高齢者をヨボヨボにする政策がありました。それはコロナ禍のとき、高齢者に対して、外出自粛を要請したことです。
「自粛」の「要請」がヘンな日本語であることは、養老孟司さんも指摘されていました。「自粛」は自分の意思で行動や態度を改めるというのが本来の意味ですから、「自粛要請」は正しい日本語ではないのです。
コロナ禍の期間は3年ほどでしたが、その間、真面目な高齢者ほど「外出自粛」を守り、その結果、フレイルになる高齢者が増加しました。
フレイルは「虚弱」という意味で、健常と要介護の間にある概念とされています。要は、活動量が減って筋力や体力が弱ったり、社会的に孤立してうつになったり、頭を使わないので認知機能が衰えたりする状態のことです。つまり、放っておくと寝たきりや認知症になって、要介護に移行するような人たちがフレイルです。
コロナ禍の外出自粛で寝たきりや認知症になった人は、私にいわせれば、要介護にならなくてもよかった人です。
新型コロナウイルスが蔓延しているといっても、別に家から一歩も出てはいけないということではありません。散歩に行くことくらいできたはずです。
つまり、今までどおり足腰を使っていれば、今も歩けたはずなのに、コロナの外出自粛要請を真に受けて、外に出て歩かなくなってしまったために、歩けなくなってしまったわけです。
でも彼らを責めるわけにはいきません。なぜなら、政府もマスコミも「一歩でも外に出たら感染するぞ!」と、高齢者を脅すようなキャンペーンを張っていたからです。結局これも、高齢者をヨボヨボにする政策でしかありませんでした。
まともなアタマを持っているなら、高齢者の外出を禁じたら、介護の予算も増えることになり、政府にとってもよいことは1つもないことがわかりそうなものですが、この国は政治家も役人も、そしてマスコミもアタマが悪いのでしょうか。
和田 秀樹
医師