クルマがなくては困る地方都市、活動しなければ衰えていく体……高齢者にとって本当に必要なものとは? 『60代からの見た目の壁』(株式会社エクスナレッジ)の著者で医師の和田秀樹氏の見解を紹介します。
「運転免許の返納」に「外出自粛」…国民の空気を読んだ“まじめな高齢者”の残念な末路【医師が警鐘】
高齢者をヨボヨボにする国!?
日本は高齢者から運転免許を取り上げて喜ぶ国。70歳を過ぎて運転を続ける高齢者に対して、息子や娘たちは免許返納を迫ります。世論も高齢者の運転は危ないから、「早く返納しろ」という空気をただよわせています。
百歩譲って、高齢者から免許を取り上げるなら、必要な公共交通手段を確保してからにしなければなりません。
日本で公共交通だけで、どこにでも出かけられるのは大都市圏だけに限られます。鉄道やバス路線のない地域が、日本にはたくさんあります。
公共交通があったとしても、2時間に1本しか列車が来ないとか、バス路線に至っては午前と午後に1本ずつといったところも珍しくありません。
それでは生活に困るので、モータリゼーションが進められ、とりわけ地方ではマイカー(もはや死語かもしれませんが)で移動するクルマ社会になったわけです。
そんな地域では、免許を取り上げられたら、スーパーに買い物に行くこともできませんし、病院に行くこともできません。まさに「死活問題」です。
それなのに、高齢者が交通事故を起こすたびに、テレビのワイドショーでは「高齢者の運転は危ないから、早く免許を取り上げろ」と、ヒステリックに叫んでいます。
わけ知り顔のコメンテーターも、買い物や病院に行かれなくなる問題に触れつつも、それと事故の防止は別問題だ、などと無責任なコメントを垂れ流しています。
そもそも交通事故を起こすのは高齢者だけではありません。もっとも事故が多いのは、免許をとって間もない若い人たちです。
警視庁が発表しているデータを見ればわかるように、高齢者の事故が突出して多いわけではありません。
それなのに、ワイドショーでは、「高齢者は認知機能が落ちているから事故を起こしやすい」といった根拠のないキャンペーンを張り続けています。
それもそのはずで、ワイドショーを制作しているのは、都会育ちのボンボンばかりです。ボンボンたちには、地方の現状がわかっていないのです。
田舎に住んだことがないボンボンには、免許を取り上げることがどんな非情なことなのか、肌感覚で理解することはできないでしょう。
そうした状況があるにも関わらず、22年、JR各社はローカル線の赤字路線の廃止をいい始めました。そもそも87年に国鉄が民営化されたとき、JRグループは大都市圏の路線や新幹線の利益によってローカル線の赤字路線を支えるから、もう廃止することはないといっていたのです。
それがコロナ禍で、このビジネスモデルが成り立たなくなったから赤字路線を廃止するといい出したのです。
手のひらを返すように、JRは約束を破ったわけですが、それで困ることになる高齢者のことをまったく考えていません。