普段なにげなくとっている食事。時間に追われる現代人は「忙しいから」と適当に済ませてしまう人も少なくありません。しかし、超高齢社会の到来で年々注目度が増している「予防医学」の観点では、普段の食生活が非常に重要だと、医師の秋谷進氏はいいます。こうした「栄養」の分野で唯一の国家資格が「管理栄養士」です。今回は、そんな管理栄養士の業務内容と給与事情をみていきます。
平均年収「400万円未満」の現実…予防医学の重要人材「管理栄養士」の“あまりにも低い”給与額 (※写真はイメージです/PIXTA)

管理栄養士の指導は「診療報酬」の算定対象

管理栄養士の資格は、病気の人に栄養指導ができる唯一の「独占資格」です。それゆえ、管理栄養士の指導は「診療報酬」の算定対象になっており、保険診療の範疇になっています。

 

具体的には、下記のように定められています。

 

1.入院栄養管理体制加算:270点

「入院栄養管理体制加算」とは、特定機能病院で病棟に常勤の管理栄養士を配置して、患者の病態・状態に応じた栄養管理を実施できる体制を確保している場合に加算されるものです。入院初日および退院時と、1回の入院で2回算定することができます。

 

2.周術期栄養管理実施加算:270点

「周術期栄養管理実施加算」とは、専任の管理栄養士が医師と連携し、「周術期」の患者の日々変化する栄養状態を把握したうえで、術前・術後の栄養管理を適切に実施した場合に算定されるものです。

※ 周術期……患者の手術前・術中・術後の、医療従事者が関わる一連の期間のこと。

 

昔は、たとえば「消化器の手術をしたらなるべく絶食して縫合部がくっつくのを待って、安静にしていたほうがよい」と思われていました。

 

しかし、いまは早期に栄養を摂り、リハビリをしっかり行ったほうが術後の経過がよいことが数々の論文で明らかになり、早期の栄養管理が重視されています。管理栄養士と連携して術後の栄養管理を徹底し、入院日数を少なくしようという試みが行われているのです。

 

他にも「外来栄養指導料」や「食嚥下機能回復体制加算」「特定機能病院リハビリテーション病棟入院料」など管理栄養士が介入することで算定される診療報酬は数多く存在します。

日本の平均より低い…管理栄養士の年収は「379.1万円」

1点=10円として計算され、患者(3割)と保険者(7割)によって支払われた診療報酬は、すべて医師の収入となるわけではなく、人件費をはじめ医薬品費や医療機器費、設備関係費として医療機関に還元されます。

 

上記のように管理栄養士の介入によって加算された報酬は、存分に管理栄養士の給与に反映されてほしいところですが、そうでもないのが現実です。

 

厚生労働省「jobtag」によると、栄養士・管理栄養士の年収は379.1万円となっています。一方、国税庁の「令和4年分民間給与実態統計調査」では、給与所得者の平均年収は男性が563万円、女性が314万円、男女計で458万円です。

 

そう考えると、「栄養のプロフェッショナル」である管理栄養士・栄養士の年収は、一般的な年収よりも低いといえます。

 

管理栄養士のほうが栄養士よりも高い給与になる傾向にあるものの、それでも栄養部門で唯一の国家資格である「管理栄養士」の給与は、業務内容に合っているかといわれると疑問符がつきます。

 

まとめ…予防医学のニーズが高まるなか、「管理栄養士の給与」は見直されるか

昨今、医療は「予防医学」の時代です。「病気になってからどう対処するか」よりも「どうやったら病気を防ぐことができるか」に関心が多く持たれるようになりました。

 

それにともない、栄養面から多くの病気を予防する管理栄養士のニーズや価値も高まってきています。

 

医療レベルの高い日本が「予防医学」の面でも世界を牽引するために、管理栄養士の給与が実情に見合ったものになることを祈ります。

 

 

秋谷 進

医師