減価償却で節税できるものといえば、社用車や中古不動産が代表的ですが、富裕層であれば絵画も経費になることをご存じでしょうか。資産が潤沢にある人のなかには、節税や投資目的で絵画を売買する人も増えてきました。本記事では、Aさんの事例とともに、富裕層が行う投資の注意点について、1級ファイナンシャル・プランニング技能士の川淵ゆかり氏が解説します。
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えっ、いままでやってきたことって投資じゃないの?

老後資金のための投資として買い集めた絵画が将来いくらになるかわからなくなったAさんは、証券会社に勤める大学時代の友人に相談します。すると、友人からは「君がやってきたことはそもそも投資じゃないんだよ。投機だよ」といわれました。

 

「投資」とは長期間保有することで、配当金や株主優待、複利効果といったメリットを受けることができますが、「投機」は価格が上がるか下がるかを予想して値ざやによる利益を得ることを目的とします。

 

「投資」は、長い目でコツコツとお金を増やしていきますが、「投機」は短い期間で大きな利益を得ようとするものです。老後のための資産形成には、「投機」ではなく、長期で資産を増やす「投資」で備えることが重要です。

 

絵画は価格が大きく変動することがあります。絵画はそのときの経済動向はもちろん流行にも左右される投機性の強い商品なのです。

 

バブルの前と後では価格が1/10に暴落した絵画や、流行に乗って一時的に高騰しても数十年も経つとまったく売れなくなった、という画家はいくらでもいます。前述のように同じ画家の作品でも値段が付くものもあれば付かないものもあり、見る目がないと難しいものです。

 

値段が下がってもその絵を良いと思い好きであれば持ち続けられますが、Aさんのように価格しか見ていないと「損をした」という印象で終わってしまうこともあります。

 

Aさんとおじいさんは絵画に対しての思いも売買の方法もまったく違いました。おじいさんは絵画を愛で、自宅にも長いあいだ飾ったりしました。そして、そのしっかりとした審美眼で才能のある人を見出だして、画廊や百貨店と組んで個展などのいわゆるプライマリー市場で世に送り出しその価値を大きく引き上げることに成功しました。

 

一方Aさんは、世に出たあとのオークション等のセカンダリー市場での取引がメインでした。このように比べてみると、Aさんのおじいさんという人は、絵画を見る目だけでなく、商売もかなり上手な人だったのだと感じますね。

 

なお、平成27年の国税庁の通達により、それまでは取得金額が20万円までの美術品に限られていた減価償却費の計上が100万円未満にまで拡大されました。これにより、美術品を節税方法として富裕層を中心に美術品の購入への関心が高まりましたが、その購入が投資なのか投機なのかを一度立ち止まって考える必要があるでしょう。

 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表