次々と「異次元の少子化対策」を見据えた施策がニュースになっていますが、今度は、子ども3人以上の多子世帯を対象とした「大学の授業料無償化」。確かに大学の授業料「たかっ!」という声は聞こえてくるので、子育て世帯からは賞賛の嵐かと思いきや、ほぼ反応なしの無風状態。なぜなのでしょうか。
「子3人以上世帯の大学無償化」に〈平均年収800万円〉の日本の子育て世帯、無反応「1人育てるのも大変なのに」 (※写真はイメージです/PIXTA)

夫婦が「理想とする子ども」は減少傾向…理由は?

国立社会保障・人口問題研究所『第16回出生動向基本調査』によると、夫婦の平均理想子ども数*1は2021年調査時で平均2.25人、平均予定子ども数*2は平均2.01人でした。どちらもゆるやかな低下傾向が続いています。

 

*1:「あなた方夫婦にとって、理想的な子どもの数は何人ですか」という設問に対する回答

*2:「あなた方ご夫婦の今後のお子さんについてお尋ねします」という設問に対し、今後産むつもりの子ども数に、すでにその夫婦がもっている子ども数を足したもの

 

また理想の子どもの数を「3人以上」とする割合は、1990年代後半に50%を下回り、2021年調査時点では33.8%にまで減少。また「2人」とする夫婦の割合は53.3%と半数を超え、「子どもはいらない/持たない」4.3%、「1人」5.2%。理想の子どもの数「ゼロ/1人/2人」に関しては、一貫して漸増が続いています。

 

理想の子ども数をもたない理由としては、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」がトップで、52.6%。「高年齢で生むのがいやだから」40.4%、「ほしいけれどできないから」23.9%、「これ以上、育児の心理的、肉体的負担に耐えられないから」が23.0%と続きます。

 

確かに経済的負担が軽くなれば「もう1人」となりそうです。ただ今回の「大学無償化」は、「子どもを1~2人を理想としながらも諦めた/諦めようとしている夫婦」は対象外。前述の通り「3人以上の子を望む夫婦」は減少しているなかでは、「多子世帯で大学無償化」といわれても、効果はかなり限定的といわざるを得ません。

 

厚生労働省『令和4年 国民生活基本調査』によると、児童のいる世帯の平均所得額は2021年785.0万円。経年の推移をみてみると、多少の上限はあるものの、近年は増加傾向にあります。これは子育て世帯において、共働きが増えたことが主要因と考えられます。

 

【児童のいる世帯の平均所得金額推移】

2012年:673.2万円

2013年:696.3万円

2014年:712.9万円

2015年:707.6万円

2016年:739.8万円

2017年:743.6万円

2018年:745.9万円

2020年:815.5万円

2021年:785.0万円

※2020年はコロナ禍の給付金の影響があると考えられる

 

夫婦共働きで収入が増えているのだから「子ども、もう1人もてるでしょ」というよりも、「子どもを育てるのに片働きではやってられない」というのが現状。また経済的に余裕があるにしても、働きながら「もう1人」というのはかなりの負担です。

 

――子どもを1人育てるのも大変なのに、子ども3人以上で大学無償といわれても…

 

もちろん、いろいろな子育て支援策が検討されており、ひとつの支援策だけを論じるのはあまり意味のないことかもしれません。ただ今のところ「子育て世帯/これから子どもをもつ世帯」から高評価は聞こえてこないことを鑑みると、少子化対策、まだ異次元に達しているとはいえない状況かもしれません。

 

[参考資料]

文部科学省『国立大学等の授業料その他の費用に関する省令』

文部科学省『私立大学等の令和3年度入学者に係る学生納付金等調査』

国立社会保障・人口問題研究所『第16回出生動向基本調査』

厚生労働省『国民生活基礎調査』