残された家族の生活を守るための制度である「遺族年金」。しかし、それでも生活が困窮する遺族がいます。少々、時代遅れな遺族年金制度、その実態をみていきましょう。
愛する妻、急逝…〈月収41万円・55歳サラリーマン〉号泣、さらに理不尽な「遺族年金」に困窮「何かの間違いでは」【共働き夫婦の災厄】 (※写真はイメージです/PIXTA)

55歳共働き夫婦…妻が亡くなり夫ショック、遺族年金制度にさらにショック

たとえば、同い年の共働き夫婦がいたとします。子どもが1人、夫婦どちらも、20歳から平均的な給与を手にしてきたとします。また遺族年金の収入要件は満たしているとします。

 

55歳のとき夫が亡くなったとしましょう。年齢的に子どもは大学生でしょうか。その場合、この要件は外れるので、妻は遺族厚生年金だけがもらうことができます。遺族厚生年金の年金額は、死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3。単純計算、月6.3万円程度になります。さらに中高齢寡婦加算として月5万円ほど、プラスとなります。

 

では55歳の妻が亡くなったとするとどうでしょうか。夫が受け取れる遺族年金はいったんは「なし」となります。いったんは、というのは、子のない夫が遺族厚生年金を受け取れるのは55歳以上の場合に限り、さらに受給開始は60歳からとなっています。単純計算、夫は月4.8万円ほど遺族厚生年金を受け取れる権利はありますが、実際に受け取ることができるのは60歳になってからです。

 

ともに55歳で、平均的な給与を手にした夫婦。夫は月収41万円、妻は月収28万円。2人で家計を支え、我が子を大学に通わせていたところ、妻が急逝。悲しみで途方に暮れるなか、ふと現実に戻ると収入が大幅に減少し、一気に家計は苦しくなる現状に直面します。しかも子どもは大学生と教育費がかさむタイミング。1円でも多くのお金がほしいときなのに、妻を亡くした夫は現段階では1円も遺族年金が支払われることはないわけです。

 

――えっ、60歳になるまで遺族年金、もらえないんですか? 何かの間違いではないですか?

6割が「妻が亡くなるリスク」を知らない

遺族年金の男女による制度の差によって、生活が困窮する夫も珍しくはありません。

 

ブロードマインド株式会社が子育て世帯で就業している20代~50代の男女1,000名に実施した『遺族年金の男女差に関する実態調査』によると、共働き世帯は73.6%。夫の年収のほうが高い世帯は82.8%、妻の年収が高い世帯は7.7%。さらに夫婦間の年収差300万円未満が41.8%。「妻の収入なくては家計がまわらない」というような共働き世帯が多いことが分かります。

 

【夫婦の収入差】

夫>妻の収入差~100万円未満:16.2%

夫>妻の収入差~200万円未満:12.2%

夫>妻の収入差~300万円未満:13.4%

夫>妻の収入差~500万円未満:17.4%

夫>妻の収入差~1,000万円未満:17.7%

夫>妻の収入差~1,000万円以上:5.9%

妻>夫の収入差~100万円未満:3.1

妻>夫の収入差~200万円未満:2.1

妻>夫の収入差~300万円未満:0.9%

妻>夫の収入差~500万円未満:0.3%

妻>夫の収入差~1,000万円未満:0.9%

妻>夫の収入差~1,000万円以上:0.4%

わらかない:9.5%

 

ブロードマインド株式会社『遺族年金の男女差に関する実態調査』より

 

そんななか、前述のような遺族厚生年金の受給額に夫婦間で差があることを知っているのは34.4%。6割強はそんな夫婦差は知らないという状況。万が一の不幸が起きたとき、さらなる不幸に直面して初めて、理不尽なことに気づくわけです。

 

実際にこのような男女差はおかしいと違憲を訴える動きがあり、また厚生労働省では諮問機関である社会保障審議会の年金部会で遺族年金制度の男女差解消に向けた議論を開始。2025年の関連改正法案の国会提出に向け協議を重ねています。

 

遺族年金の男女格差。その解消まで、あと一歩のところまできています。

 

[参考資料]

総務省統計局『令和2年国勢調査』

日本年金機構WEBサイト「遺族年金」

厚生労働省『令和4年賃金構造基本統計調査』

ブロードマインド株式会社『遺族年金の男女差に関する実態調査』