病院にかかった際、調剤薬局で処方箋を出してくれる「薬剤師」。病院や薬局で働いているイメージが一般的ですが、薬剤師にはさまざまな働き方があり、場合によっては高い収入を得ることも可能です。しかしそのせいで「薬剤師の偏在化」が問題になっていると、小児科医の秋谷進氏はいいます。薬剤師の「収入面」に焦点をあてながら、現在日本の医療業界が抱えている問題について、秋谷氏が解説します。
平均年収583万円…薬局や病院にいる「一般的な薬剤師」が不足しているワケ【医師が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

多種多様な働き方が可能な「薬剤師」

OECDの調査「医療関連データの国際比較(2019年)」によると、日本の薬剤師の数は、OECD 加盟国のなかで圧倒的に多く、さらに増加しているそうです。また、厚生労働省の受給推計(2018年)によると、日本では最大25,000人の薬剤師が「過剰である」とされています。

 

そんな「多すぎる」薬剤師ですが、実のところその働き方は多種多様であり、職業によって「年収」も「キャリア」も変わってきます。そして、キャリアによって年収が変わってくるからこそ「薬剤師の偏在化」という問題が起きているのです。

 

いま、薬剤師で問題になっている偏在化について、収入に焦点をあてて解説していきます。

 

まず、薬剤師には以下のような働き方があります。

 

1.薬局での勤務

薬剤師のイメージとしてもっとも一般的なのは「薬局の薬剤師」でしょう。地域社会に密接に関与し、患者の日常的な薬物療法の管理をサポートするのが役割です。

 

実は、ドラッグストアでもさまざまな仕事があって、処方箋の解釈から薬の調合、患者への薬物教育などが主な仕事内容となります。

 

2.病院や病棟での勤務

次に多い薬剤師の働き方が「病棟や病院の薬剤師」です。医療チームの一員として、患者の薬物療法を管理し、医師や看護師と連携して働きます。

 

入院中の患者の採血検査や状態を把握し、薬物の選択と用量の最適化や、薬物相互作用の監視、薬物治療の評価などが主な仕事内容です。

 

外来患者の院内処方、入院患者の薬剤管理者、そして集中治療室のスタッフとして、専門知識が非常に重要となる職業です。

 

3.MR(Medical Representatives:医療情報担当者)としての勤務

また、薬剤師の資格を持ちながら、MR(医薬情報担当者)として働いている人もいます。

 

「MRって、薬のセールスマンでしょ」と思っている人は少なくありません。確かにそういう側面もありますが、厳密には違います。

 

MRとは製薬会社の重要な職種であり、主に製薬会社と医療機関との連携が主な役割です。

 

たとえば、新しい医薬品や治療法を医療機関に紹介し、その利点と用途を説明したり、さまざまな薬の安全性や効果を説明したりします。

 

また、医療機関や医師からのフィードバックを収集し、製薬会社に報告することで、製品改善や新製品の開発に貢献しているのです。

 

こうして、MRは「薬を使う医療機関」と「薬を作る製薬会社」の橋渡しのような役割を担っています。

 

橋渡しが主な仕事なので、薬に関する最新の知識はもちろんのこと優れたコミュニケーション能力と人間関係スキルも必要とします。

 

4.経営者としての薬剤師

薬剤師がビジネスオーナーとして経営者となる場合もあります。たとえば、薬局や漢方相談、関連するヘルスケア事業の運営などです。

 

この場合、財務や人材の管理、事業戦略の策定など全般的な経営活動を行うため、医薬品の専門知識だけでなく、経営の知識やスキルも必要です。

 

5.研究者としての薬剤師

あとは、教育機関や研究機関で、教育と研究の両方に従事する場合もあります。

 

たとえば大学で働く場合。薬学の教育、薬剤師のトレーニングプログラムの開発、薬剤に関連する研究プロジェクトに関わることもあります。

 

また、製薬会社に入社し、MRではなく研究者として働く場合もあります。

 

こうした研究者としての薬剤師は、次世代の薬剤師を育てること、薬剤に関連する新しい知見を生み出すことが主な役割です。

 

6.政府機関や薬剤の規制などに関する職

薬剤師のなかには「政府関連機関で働く」人もいます。

 

彼らはたとえば、政府機関や規制当局で、薬剤や医薬品関連の規制、研究の規約整備などを担います。薬剤の安全性と効果を評価し、公衆の健康を保護する規制を作成・実施しているのです。

 

薬剤師としての専門知識だけでなく、「日本の薬剤開発の環境をなんとかしたい」という志が大切になってきます。