生き方が多様化する現代。結婚が当たり前だったころと比べて、生涯独身や事実婚といった選択肢もさほど珍しいものではなくなりました。しかし、事実婚カップルのなかには、パートナーの死後、自分たちの選んだこととはいえ、大きな後悔が残ったという人も少なくありません。本記事では、FP1級の川淵ゆかり氏が、Aさんの事例とともに、パートナーに先立たれた事実婚カップルのお金の事情について解説します。
7年間同居も…年収350万円の42歳内縁妻、夫の死後にパートナーの家族から放たれた残酷なひと言「頭が真っ白になりました」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

事実婚のパートナーは「死亡退職金」を受け取れるのか?

亡くなったパートナーとの思い出のあるマンションも追い出されることになり、途方にくれていたAさんにパートナーの会社の上司から連絡が入ります。

 

「退職金をお支払いしますので、手続きもありますから一度会社へ来てくれますか?」

 

さて、相続人でもないAさんに死亡退職金は受け取れるのでしょうか? 

 

死亡退職によって支給される場合の死亡退職金は、遺族の生活保障を目的としていると考えられ、相続財産に属さないとされており、内縁の妻が受け取ることができます。労基法施行規則42条では次のように規定されています。

 

第四十二条遺族補償を受けるべき者は、労働者の配偶者(婚姻の届出をしなくとも事実上婚姻と同様の関係にある者を含む。以下同じ。)とする。

 

死亡退職金について定めている規定としては、私立学校教職員共済組合法、国家公務員共済組合法、恩給法、労働者災害補償保険法、中小企業退職金共済法、労働基準法施行規則などで、地方公共団体の死亡退職金に関する規定もこれらに準じており、多くの組織で死亡退職金や弔慰金は相続財産ではないとされています。

 

Aさんは亡くなったパートナーの会社のイベントに参加したり、パートナーの上司や同僚とも交流があったため、Aさんへ連絡が行ったようです。もし、Aさんの存在を会社の方が知らなかったら、退職金の通知もパートナーの実家に入っていたかもしれませんし、自分から問い合わせる必要もありました。

 

Aさんは、亡くなったパートナーの会社を訪問し、私物を受け取ったり、知った顔の上司や同僚から慰めの言葉をかけてもらったりして、思わず泣き出してしまったそうです。Aさんは死亡退職金と、ほかに企業年金からは一時金も受け取ることができたため、新しい住まいに移ることができ、再出発をすることができました。

事実婚のパートナーは「遺族年金」を受け取れるのか?

さて、本妻であれば当然遺族年金を受け取れますが、実は内縁の妻でも遺族年金の受給権はあります。ただし、死亡した被保険者と生計を同じくし、恒常的な収入が将来にわたって年収850万円未満であること、といった要件を満たす必要があります。

 

ですから、故人と内縁関係にあったことが証明できなかったり、収入が850万円以上の年が続いたりする方は遺族年金を受給することはできません。

 

Aさんは亡くなったパートナーとのあいだに子ども(※18歳未満)がいないので、遺族基礎年金はありませんが、遺族厚生年金を受給できる権利はあります。

 

いろいろな手続きが面倒で事実婚を選ぶカップルもありますが、いざという場面で事実婚である証明をしなければならないのもまた面倒です。自分たちの将来や相手のことも考えて、しっかり話し合っておきましょう。

 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表