生活保護に関して行政の対応のまずさがニュースになりましたが、そこで改めて浮き彫りになったのは「生活保護制度への不平・不満」。なぜ生活保護は批判の対象となるのでしょうか。
生活保護月13万円・ハローワーク&病院通いの30代男性「世間の目が怖い」と悲鳴…生活保護受給者に向けられる、あまりにヒドイ風当たり (※写真はイメージです/PIXTA)

バッシングされる生活保護…欧州各国と比べると利用率は極端に低い

日本における生活保護の利用者は203万人(2022年3月時点)。日本の総人口1億2,494万人から考えると、生活保護利用率は1.6%となります。この数値、欧州諸国と比べると随分と低い数字だといいます。たとえば北欧のスウェーデンでは4.5%、フランスは5.7%、ドイツは9.7%。また生活保護を利用する資格がある人のうち、実際に生活保護を受けている人は日本では2割に過ぎないとか。仮にドイツ並みの水準にすると、700万人近い人が生活保護を受けることになるといいます(厚生労働省資料より)。

 

なぜ生活保護を必要としながらも申請しないのでしょうか。そこにはやはり、生活保護への風当たりがあるのでしょう。そして風当たりが強くなったきっかけが、生活保護の不正受給。生活保護を受けながら、優雅な暮らしをしている様子がネットなどで広く知られるようになると、「生活保護を受けておきながら、我々よりも良い暮らしをしているなんて……許せん!」という声が溢れるようになったのです。

 

厚生労働省によると、生活保護の不正受給は保護費全体の0.4%程度で、その割合に大きな変化はないといいます。それでも「生活保護は、元々私たちの税金。不正受給はゼロにすべき!」という声も。しかし申請、調査が厳格になると、本当に生活保護を必要とする人がさらに躊躇してしまい、届けなければいけない支援がいっそう届かなくなる恐れも。なんとも難しいものです。

 

生活保護を受けながらの生活を投稿した東京在住の30代の男性も、世間の風当たりの強さから申請を一度は躊躇したといいます。男性は会社員時代に身体を壊し入院、そのまま退職をしたといいます。貯蓄といえる貯蓄もなく、とても生きてはいけないと生活保護を申請。現在、月13万円程度の保護費をもらいながらハローワークと病院に通っているといいます。

 

――ハローワークや病院に通いながら、毎日1,000円を受け取りに役所通い……正直しんどい

 

冒頭のニュースへの感想。また病院通いを投稿した際には、「生活保護者は医療費がタダでいいよな」と悪意のあるコメントを多くもらい、一時、通院まで躊躇したとか。「でも、病院にいかないと社会復帰は遠のくので」と、再び通院するようになったといいます。

 

――世間の目が怖い。早く生活保護の生活から抜け出したい

 

と悲痛な想いを綴る男性。一刻も早く、病気を治し、就職できるよう奮闘しているといいます。男性のように、大抵の生活保護受給者は、批判されるようなことはしておらず、何とも不憫。しかし生活保護が批判の対象になるのは、私たちのさまざまな不平・不満が背景にあります。

 

――最低賃金や年金が生活保護費より低いなんて許せない!

 

きっと一度は聞いたことがあるこのフレーズ。厚生労働省によると、東京都の最低賃金は時給1,113円。仮に月6.5時間、1ヵ月に22日働いたとしたら、月15.9万円。そこから税金などが引かれると、手取り12.5万円ほど。生活保護費を下回ります。また年金の平均受給額は、厚生年金受給者で月14万円。実際の手取り額は月12万~13万円弱となるので、やはり生活保護費を下回ります。

 

確かに、頑張っている人が生活保護を受けている人より収入が低いなんて……と批判したくなるのも分かります。しかし「最低賃金や年金が低すぎる」ことが何よりも問題です。

 

最低賃金については、昨今の物価上昇もあり今後、さらに引き上げられる可能性は高いといわれています。しかし年金は……むしろ引き下げられる可能性が高く、公的年金の将来の給付水準などを示す「財政検証」によると、20年後に2割減は確実視されています。

 

年金額が減少する理由のひとつは財政難。しかし年金が減少すれば困窮する高齢者が増えていくでしょう。そうなると、生活保護を受ける高齢者は増え、その分、コストはかさむはず。

 

現在、生活保護受給者の半数以上が65歳以上だといわれています。「国にお金がない」→「年金額減少」→「生活保護の高齢者が増加」→「国の支出増加」……なんともちぐはぐなことが起きようとしています。