“医師といえば高い給料をもらっている”というイメージをもつ人は多いでしょう。しかし実際には「無給」「薄給」で働いている医師も少なくないと、小児科医の秋谷進氏はいいます。今回、現役の医師である秋谷進氏が、日本の“医療業界の闇”を紹介します。
平均年収1,468万円“高所得エリート”のイメージ強いが…日本で「無給医師」が続出しているワケ【医師が告発】 (※写真はイメージです/PIXTA)

なぜ日本には「無給医師」が存在するのか?

ではどうして「無給医師」という現状がまかりとおるのか。大きくわけて3つの理由があります。

 

①給料を放棄してまで「学びたいもの」があるから

後述する特別な事情がなければ、本来「医師側」が希望して病院を選ぶもの。にもかかわらず、「無給でもいいから働きたい」と考えるのは、「お金に変えられない価値がある」と、その病院に感じているからです。

 

そのひとつが「経験」になります。

 

たとえば「普通の病院では到底できない、最先端の高度な治療を行っている病院」での経験は、ほかには変えられません。しかもそういう病院に限って、患者さんがその治療を求めて殺到するため、需要と供給の関係で、多忙を極める場合が多いです。

 

そういった場所での経験は、お金に変えられない価値がある……そう彼らは考えるのです。

 

もちろん病院側も、給料が安くても来てくれるならそれに越したことはありません。そのため「病院での経験」を売りにして、安い賃金で労働力を手に入れるのに成功しているわけです。まさしく「医師の研鑽」という名の労働搾取でしょう。

 

②医局配属による「カリキュラム」に従わないといけないから

医師が早々にフリーランスとして独立するのはごく少数のケースであり、多くは「医局」に所属することになります。

 

なぜなら、1〜2年働いたところで身につけられるスキルは限られているからです。そして、“一人前の医師”として認められるには、膨大な経験や実績が必要となります。

 

“一人前の医師”としての「経験」や「実績」を身につけるため、もっとも手っ取り早い方法が「医局配属」です。医局配属になると、医局の名前でいろんな病院に配属されるので、フリーランスでは行くことができないような、大きな病院や有名な病院で豊富な実績を身につけることができます。

 

しかし、医局に配属されている以上、組織の「命令」には従わないといけません。ある程度自分の主張を通すこともできますが、自分が望んでいたよりも大幅に低い給与の先に配属され、薄給で働かないといけないというケースがでてきます。

 

特に、大学病院の場合「大学病院に有給職として雇えるのは〇人」と決めているケースがあり、それでは人手が足りないため、無給医として働かせることがあるのです。

 

③大学院生としての「カリキュラム」に従わないといけないから

また、キャリアアップの一助として考えられているのが「大学院生生活」による「医学博士の取得」。

 

みなさん、「医学博士」と書いてあると「通常の医師とは違うのだろうな」と思いませんか?

 

実際、医学博士を取得するのは大変で、4年間の間、大学に所属しながら研究や論文で実績をあげて、卒業論文も書かなければなりません。臨床業務は通常の医師と変わらず、なおかつ講義に出席し、授業料も払い、そして通常の医師よりも薄給です。

 

たとえば、大学の授業料とほぼ同額の給料が大学から支払われ、そのまま授業料に消えていく……そんな大学もあるのです。こうなると本当に「無給医師」となってしまいます。

 

もちろん、無給で生活できるわけはないので、「バイト」に行く時間が許されており、「バイトの時間」で主な生活を行います。そうなると大学病院はほとんど給料を支払わないまま、大学院生を労働力として使えるというわけです。

 

しかし、彼らも「医学博士」の肩書もほしいですし、カリキュラムに従うと契約した以上、逆らうことはできません。こうして「無給医師」が誕生するというわけです。