貧困の壁は「学力」以外にも当然立ちはだかる
では、学力がダメならスポーツはどうでしょうか。ここでも当然貧困の壁は立ちはだかります。
「love.fútbol Japan」と言うNPO法人が行った調査では、支援世帯の実に約30%子どもがサッカーをするために「借入」をしていたという事実が判明しています。
つまり経済格差のために、「良い環境でサッカーをする」というのではなく、そもそも「普通にサッカーをする」ことができず、借入が必要という世帯が日本中に存在するのです。
健康面でも貧困問題はついて回ります。
貧困家庭の子どもは朝食の欠食率が高いことが知られており、成長期の身体形成、体力増進が阻害されたり、集中力の低下による学力へ影響が懸念されています。
加えて医療機関への受診を控える、任意予防接種を控えるといった医療アクセスの問題が起きるのです。
さらには貧困家庭であるほど受動喫煙率が高いという報告もあります。貧困が両親の健康に対するリテラシーに直結する問題であることがわかります。
このような結果、子供の頃に貧困だった人は、成人になってからの虚血性心疾患、脳卒中、肺がんなどによる死亡率が優位に高いことも報告されています。子どもの頃に基本的な生活習慣や食習慣を確立できないことが原因と考えられています。
このように貧困な世帯に育つと、貧困に起因する多くの問題が立ちはだかり、容易に這い上がれないのです。そうして貧困家庭が減らず、経済格差のひろがりで貧困状態に陥る人が増えると、ますます貧困から這い上がれない人が増えていくという負のスパイラルに陥ります。最終的には社会全体の機能が低下していくことにつながりかねません。
貧困問題は貧困に喘ぐ当事者だけの問題でなく、社会全体で対処すべきものなのです。
まとめ…貧困を「社会全体」の問題に
貧乏から努力で這い上がる。そのような話が美談とされていますが、努力でどうにもならない環境に置かれている子どもたちがたくさんいます。
確かに裕福な家庭で育った方もたゆまぬ努力の上で裕福さを保っているのは事実です。しかし、豊かに見える日本社会でも、どう努力しても這い上がることが難しい状態に置かれている子ども達が大勢存在します。また裕福な人も社会の変化のなかで貧困に陥るとそこから抜け出すことが非常に困難な状況になっています。
貧困が社会全体の問題として捉えられ、多くの人が努力すれば自分の存在意義を見出せる、そんな未来が来ることを願って止みません。
秋谷進
東京西徳洲会病院小児医療センター
小児科医