年を取ると「黒と紺」の見分けがつきにくくなる医学的な理由…目に何が起きているのか【眼科医が解説】

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平松 類
年を取ると「黒と紺」の見分けがつきにくくなる医学的な理由…目に何が起きているのか【眼科医が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

年齢とともに起こる「目の変化」は、手元が見にくくなる「老眼」だけではありません。「黒と紺が見分けにくくなる」などの色合いの見え方も徐々に変わってきます。なぜ、このような変化が起こるのか。「年齢のせい」で済まされがちな“見にくさ”について、眼科医・平松類氏が解説します。

その目の不調、本当に「老眼のせい」?

(※写真=PIXTA)
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年齢を重ねて見にくくなってくると、「老眼だろう」と思うのが一般的です。しかし、その決めつけによって、他の病気を見逃してしまう方がいます。眼科医として、「もっと早くに診察に来ていればこんなことにならなかったのに」と悲しい気持ちになります。

 

病気による見にくさと老眼による見にくさは何が違うのでしょうか? 老眼というのは「手元が見にくいが、遠くは問題なく見える」というものです。一方で白内障や緑内障といったさまざまな目の病気の場合は「遠くも近くもどちらも見にくい」という特徴があります。遠くも近くも見にくいのに「老眼だろう」と勝手に決めつけてしまうと、重要な病気を見逃してしまいます。

 

「病気と老眼は違うから気づくだろう」と思われがちですが、そうでもありません。例えば、白内障は徐々に目が白くなってきます。「白く見えて気づく」わけではなくて、本当にわずかずつの変化なので気づきにくいのです。日本人の失明原因第一の緑内障でさえ、「見にくくなった」と気づくのは末期になってやっとです。目を一生見える状態に保つためには、ちょっとした見にくさにも気をつけて、勝手に「老眼」と決めつけないことが重要です。

黒と紺を間違える、化粧や服の色合いが急に濃くなった…は白内障のサイン

(※写真=PIXTA)
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年齢を重ねてくると黒と紺色の見分けがつきにくくなってきます。他にも、色合いが前とは違うように感じるという変化が起きています。あなたのまわりに、若いときは化粧が濃くなかったのに、高齢になってから急に化粧が濃くなった人はいないでしょうか? はたまた、高齢になって前よりも洋服の色味が強くなったという人はいないでしょうか?

 

その原因のひとつに、白内障によって色の見分けがつきにくくなっているという問題があります。

 

白内障というのは名前の通り、目のレンズ(水晶体)が白く濁ることをいいます。けれども真っ白というわけでなく、やや黄色味がかっていきます。つまり黄色いフィルターを通して世の中を見ているのです。黄色のフィルターは、補色となる青の光をカットします。青に近い光は波長が短い「短波長」の光です。ブルーライトともいわれるのがこの青い光になります。

 

ブルーライトをカットするのなら良い変化なのではないか?と思われがちですが、ブルーライトをカットしすぎると問題が起きます。そのひとつが、前述の「色合いが変わる」というものです。目に映る世界から青色の成分をカットしてしまうので、色がくすんで見えやすくなります。

 

ちなみに、白内障手術をした後に合併症として「青視症」というのがあります。これまで黄色いフィルターを通してみてきた人の目のレンズの汚れを手術で吸い取り、綺麗なレンズに入れ替えるために、手術後は逆に青っぽく感じるというものです。本当はその青っぽい色こそ正常なのですが、長年白内障のある目を通して見てきたがために、脳が色合いを間違って認識するようになってしまうのです。

 

ブルーライトをカットしすぎることのもうひとつの問題点は、睡眠への影響です。「ブルーライトを夜に見てはいけない」といわれる理由は、ブルーライトが1日のリズムを作るものだからです。本来、人間は太陽が昇る朝に起きます。太陽光にもブルーライトが含まれていて、日中はそれを十分に浴びる。そして夜は太陽が落ちて光がなくなる。

 

このリズムによってメラトニンというホルモンが分泌されます。メラトニンが睡眠を誘導してくれて、より良い眠りを作ってくれるのです。処方薬にもメラトニンに関連した睡眠薬があるくらい、メラトニンは重要なホルモンです。

 

夜間にブルーライトを浴びると、本当は夜なのに「朝だ」と脳が勘違いしてしまい、睡眠を取ろうとしても十分に眠れず、眠れたとしても中途覚醒しやすくなってしまいます。逆に、白内障によって日中のブルーライトがカットされすぎるとメラトニンの分泌が抑制されてしまい、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりなどの悪影響が生じます。

組み合わせによっては「目立つ色」でも見にくい

(※写真=PIXTA)
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色の差がわかりにくいと、問題となるのは「強調した文章」です。一般的に、文字は白地に黒で表記されます。これは白と黒というのが対比として最も強いので、文字がしっかりと読めるからです。

 

ほかにも、一般的な色使いのなかで、「強調したい文章を赤字で書く」という場合があります。はたまた「黄色いマーカーで線を引く」ということもあります。どちらも見やすくする方法ですが、これらを組み合わせると、実はかえって見にくくなってしまいます。

 

黄色いマーカーを引いた上に赤い文字で「注意!」と書くと、色合い的にはいかにも注意をひいてくれますが、白内障だと色合いの差がわかりにくくなります。特に黄色と赤色というのは実は近い色ですので、書いてある文字が読みにくくなってしまうという事態が起こります。ですから、ある程度以上の年齢の人に注意を促したい場合は、黄色いマーカーに赤字で書くのは避けたほうが良いでしょう。

白内障を予防するには?日常生活でできる工夫

(※写真=PIXTA)
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色味がわかりにくくなる白内障を予防するには、どうすればいいのでしょうか? ひとつは紫外線を避けることです。ある研究によると、北欧の人より南の人の方が白内障になりやすいということがわかっています。

 

赤道に近くなると、紫外線を浴びる量が多くなるからです。白内障で白く濁る水晶体というレンズは、もともとは透明です。透明なタンパク質に熱などを加えると白くなります。卵の白身は、火にかけなければ透明ですが、ゆで卵にすると白くなるのに似ています。水晶体も、紫外線を浴びるとこの変化を引き起こしてしまうのです。

 

紫外線を避けるためにサングラスをするというのもひとつの手段ですが、なかなか使いにくい、外見が気になるという意見も多くききます。そんなときに有効なのがメガネです。サングラスのようにレンズの色が濃くないと効果がないと思われがちですが、そんなことはありません。

 

紫外線はそもそも見えない光です。サングラスの色が濃かろうが薄かろうが、そこには外見上の違いしかなく、紫外線を避けられるか否かという機能面には関係しません。レンズが透明なメガネでも紫外線カット効果のある製品もあるので、使っていただければと思います。

 

紫外線を避けるアイテムとして、つばのついた帽子もおすすめです。帽子をかぶっていれば上から降り注ぐ光が目に当たりにくくなるので、白内障の悪化を防ぐことができます。

 

さらに白内障の予防に重要なのは「目をかかないこと」です。目を強くこすることは、透明な水晶体にダメージを与える行為です。そのダメージにより水晶体が変性してしまうのです。例えば、アトピーがある人は目をこすりがちなので、20代でも白内障になって手術をしなければいけないケースがあります。目をかくという行為はそれくらい目にとって負担が大きいと認識してください。

 

そのほか食事も重要です。糖尿病性白内障といって、糖尿病があると早く白内障になります。30代・40代でなってもおかしくありません。仮に糖尿病まではいかなくとも、血糖値が高くなりやすい生活自体が目にとって負担なので、白内障になりやすいです。

 

さらには肉の焦げたものなど、「AGEs」といわれる物質も白内障を促進しやすいといわれています。そのため肉を調理する場合も、「焼く」よりも「煮る」というような調理法を選ぶことで、白内障をはじめとする目の年齢性のダメージを防ぐのに役立ちます。

 

また、栄養素でいうと「アスタキサンチン」と「ルテイン」という栄養素が注目されています。アスタキサンチンは、カニ・エビ・鮭などの赤い海産物に含まれています。アスタキサンチンは、抗酸化物質といって身体の老化を遅らせてくれるものです。そのため白内障になるのを予防するといわれています。

 

ルテインというのは、目の加齢変化に重要な栄養素となります。ルテインも抗酸化物質でもあるのですが、特徴的なのは「目に蓄積される」という点です。ルテインなどの栄養素によって、黄斑という目の“モノを見る中心部分”を守ってくれています。

 

黄斑は加齢変化によってダメージに弱くなってしまうので、40歳を超えたら積極的にルテインを摂取するようにした方が良いでしょう。ルテインは主に緑黄色野菜に含まれています。ホウレンソウやケール・ゴーヤなどです。はたまた卵にも含まれています。

 

これらの栄養素を日々摂取するように心掛けていただければと思います。

 

 

平松 類

二本松眼科病院 副院長

 

 

 

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本記事は、株式会社クレディセゾンが運営する『セゾンのくらし大研究』のコラムより、一部編集のうえ転載したものです。