(※画像はイメージです/PIXTA)

「首のコリ」で悩んでいる方は少なくありません。自分で情報を調べたり、治療院に行ったりすると、しばしば「ストレートネック」「スマホ首」といった言葉に行き当たり、放置による将来的なリスクについて、不安になるかもしれません。ここでは、首のコリと将来的な健康リスクの有無について、横浜町田関節脊椎病院の整形外科医、歌島大輔医師が医学的な観点から解説します。

「ストレートネック」で論文を調べてもヒットしないワケ

(※写真=PIXTA)
(※写真=PIXTA)

 

実は「ストレートネック」は和製英語であり、そんな英語の医学用語はありません。医学論文を調べようと思ってストレートネックで論文を調べても全然ヒットしないのは、それが理由です。

 

ストレートネックに該当する英語には、主に2つあります。

 

1つは「text neck(テキスト・ネック)」という言葉。スマートフォンなどでテキストを打つときになりやすい姿勢が由来と思われますが、実際には横から見て、身体の軸より頭が前にある、前方頭位という状態です。そういう意味では日本語でよく言われる「スマホ首」に近い表現になると思います。これはまさに姿勢の問題になります。

 

しかし、われわれ整形外科医がストレートネックと表現するのは、主にレントゲンを見たときです。首の骨は通常、レントゲンでは前に凸のカーブを描いているのですが、それが真っ直ぐにストレートになっていることを「ストレートネック」というわけです。このレントゲンで示されるストレートネックは、英語表現としては「loss of lordosis(ロス・オブ・ロルドーシス)」という言葉になります。「lordosis」は前弯という意味で、前に凸のカーブということです。このカーブがロスして、真っ直ぐになるということです。

 

つまり、英語で調べてみると明確ですが、ストレートネックには2つの意味、「状態(姿勢の問題)「レントゲン上の骨の配列の問題)」が混ざってしまっているのです。

 

1.「ストレートネック」は、解消しないといけないもの?

そもそも改善しないどうなってしまうのか。これを医学的に検証してみましょう。

 

まず、姿勢の問題としてのストレートネック。英語圏ではtext neckでしたね。

 

text neckと首の痛みの関係を調べた研究があるのですが※1、驚くべきことに、関連性はなかったそうなのです。つまり「ストレートネックと言われる姿勢をとりがちな人は首の痛みの原因になるのでやめましょう」という指導は、根拠が不足していることになります。

 

一方で、単純に姿勢としての前方頭位、猫背は見た目が悪いと思われる人が多いと思います。自信がなさそうに見えてしまいますからね。

 

では、レントゲンでみたときに首の骨の配列がストレートになってしまっている状態はどうでしょう? これを改善しないとどうなるかについても、いくつか研究されています。

 

例えば、レントゲン上認められるストレートネックの患者さんでは、首の骨の間のクッションである椎間板が傷む傾向にあることが報告されています※2。その結果、椎間板ヘルニアの状態となり神経を圧迫してしまうなどの問題や、首の痛みとの関連も出てくるかもしれません。

 

実際、40歳以下の首が痛い患者さんにおいて、頚椎椎間板のヘルニアはストレートネックと密接な関係があることが報告されています※3

 

このように丁寧に研究を追いかけていくと、実際のリスクも想像しやすくなります。

 

一方で、こういう研究や医学的根拠を提示せずに「ストレートネックを放置すると、全身に影響を及ぼし、肥満になり、生活習慣病のリスクになる」というような情報発信をよく見ますが、筆者が知る限り、その説を支持する研究はありません。

 

さて、ここまで解説したとおり、「ストレートネックを解消しないと大きな健康リスクがある」というのは、過剰な不安を抱かせるだけの、根拠不足な情報だといえますが、一方で、首の痛みとの関連がある可能性はありそうです。

 

2.一方、「首こり」は自律神経と関連する可能性が…

しかし、ストレートネックとの直接の関連ではなく「慢性の首の張り・痛み」という、いわゆる「首こり」については、自律神経との関連が指摘されています。

 

原因か結果かという問題は未だ解決されておりませんが、純粋な自律神経障害と診断された患者さんの93%に首の痛みがあったとされる報告もあります※4。自律神経障害は、だるさ、不眠、疲労感、頭痛、動悸、めまい、のぼせ、立ちくらみ、下痢、便秘など、全身に様々な不調を来たし、重症化すると起立性低血圧などで転倒のリスクがあります。

 

これらのような自律神経障害を疑う症状がある場合は、内科医と相談する必要がありますし、その上で、首こりに対する対処をすることも推奨されます。その方法について考えていきましょう。

首のこり、揉んでも叩いてもラクにならない!

(※写真=PIXTA)
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首のこりについて「揉んでも叩いても良くならない」という声が聞かれます。これは本当に多いお悩みです。医師としてまず先にお伝えしたいのは「よくならないからといって、さらに強く揉んだり叩いたり」することは「最もやってはいけないこと」だということです。

 

実はこの結果、ある一定確率で症状がラクになる人がいます。しかしそれは「オフセット鎮痛」と「プラセボ」と言うメカニズムによるもので、医学的には、痛みを感じたあとに一時的に症状がラクになるという反応でしかない可能性が高いのです。

 

逆に「揉み返し」と呼ばれる副作用が出やすくなりますし、なにより、身体に優しくありません。強く揉んだほうが本質的に改善するという医学的根拠もないのです。

 

さらに、週5回、4週間のマッサージを受けたグループよりも、同じ回数、セルフエクササイズを行ったグループのほうが首こりの痛みや首の可動域(動かせる範囲)の改善が大きかったという報告もあります※5

 

首コリの大きな原因として、多くの専門家に共通する意見は、筋肉や筋膜の問題が大きいだろうということです。筋肉は自ら収縮することができる組織であり、それが本来の役目ですから、外から揉まれたり叩かれたりするだけで筋肉の問題が改善すると考えるほうが、無理があるのかもしれません。

 

コリの症状が出たときに、本質的な改善策がセルフエクササイズということになります。

ストレートネックを改善させるエクササイズ

(※写真=PIXTA)
(※写真=PIXTA)

 

ここで、ストレートネックに対する研究結果が出ているエクササイズを1つご紹介します。

 

「等尺性頚椎伸展訓練」というシンプルなエクササイズの効果を検証※6した研究があります。頸椎伸展というのは首をそらす、上を向くという動きですね。等尺性というのは筋肉の尺が変わらないという意味で、要は動かない筋トレです。

 

例えば、両手をついて、押しあいっこするトレーニングなどは大胸筋の等尺性訓練として有名です。つまり、等尺性頸椎伸展訓練というのは、後頭部で手を組んで、その手で後ろから前に押し、それに抵抗するように首に力を入れる、ということです。このように後ろから頭を押す手に抵抗して力を入れる、を10秒やって、休んで、また10秒やる。これを3セットくらい行うのが一般的です。そしてその研究によると、これを3ヵ月続けるだけで、ストレートネックの改善率が85.2%あったと報告されています。

 

まとめ

今回は「首こり」と「ストレートネック」、そして放置した場合の将来のリスクと対処法について解説しました。健康情報を参考にする場合は、本記事のように根拠(論文など)があるかどうかを確認することが、大事な身体を守ることに繋がると考えています。

 

出典

※1 Association Between Text Neck and Neck Pain in Adults Igor Macedo Tavares Correia et al. Spine (Phila Pa 1976). 2021

 

※2 asashi Miyazaki et al. Spine (Phila Pa 1976). 2008 Kinematic analysis of the relationship between sagittal alignment and disc degeneration in the cervical spine

 

※3 Xue-Jun He et al. Zhongguo Gu Shang. 2021 Correlation between cervical curvature and cervical disc bulging in young patients with neck pain

 

※4 Taewoo Kang, et al. Medicine (Baltimore). 2022 Cervical and scapula-focused resistance exercise program versus trapezius massage in patients with chronic neck pain: A randomized controlled trial

 

※5 Isometric Exercise for the Cervical Extensors Can Help Restore Physiological Lordosis and Reduce Neck Pain: A Randomized Controlled Trial Mahmut Alpayci et al. Am J Phys Med Rehabil. 2017 Sep.

 

※6 K M Bleasdale-Barr , et al.J R Soc Med. 1998 Neck and other muscle pains in autonomic failure: their association with orthostatic hypotension

 

 

歌島 大輔
横浜町田関節脊椎病院
整形外科医

 

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本記事は、株式会社クレディセゾンが運営する『セゾンのくらし大研究』のコラムより、一部編集のうえ転載したものです。