(※画像はイメージです/PIXTA)

デスクワークで運動習慣のない人は、筋力不足等で整形外科的な不調が起こりがちです。腰に悪影響のある習慣や、痛めてしまった場合の対処法について、整形外科的な観点から検証・対応策を学びましょう。横浜町田関節脊椎病院の整形外科医、歌島大輔医師が解説します。

「座りすぎ」に秘められた、コワい健康リスク

(※写真=PIXTA)
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そもそも論として、多くのデスクワーカーが行っている「悪い習慣」に、「座る時間が長い」ことがあげられます。その結果、身体活動量が少なくなってしまいます。要は、座りすぎによる運動不足が最大の健康リスクなのです。

 

座る時間が1日6時間以上で、身体活動量が低い人は、座る時間が短くて、身体活動量が多い人に比べて、男性で48%、女性で94%も死亡リスクが高かったと報告する研究があります※1

 

命に関わるレベルの健康リスクというのは、かなりのインパクトだと思いますが、それゆえ、最近では立った状態で作業ができる「スタンディングデスク」が注目されているわけですね。

座る姿勢が椎間板にかける「負荷」

(※写真=PIXTA)
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腰の椎間板(クッションの役割をする軟骨)に対する負荷は、立っているときより座っているときのほうが強いということは、かなり古い研究を論拠とし、常識的に述べられてきています※2

 

一方で、1999年にはその傾向に疑問を呈するデータも出ています※3。こちらの研究では、立っているときのほうが少し座っているときより椎間板にかかる圧が高いことが示されたんですね。

 

実験の方法や個人差などを考慮に入れると、より、大規模な研究などが必要なのだと思いますが、現時点では座っているときも立っているときも「どちらも」、椎間板に負担はかかるという理解でいいと思います。

 

しかし、それでもなお、座っているときの腰への負担を重要視したいのは、座っているときの「姿勢」です。椅子の工夫やよほど意識を保たない限り、座った状態では徐々に腰が丸まってきてしまいます。これは腰椎の前屈という状態で、より椎間板への負荷が強まる姿勢です。それも前屈によって重心は背骨よりも前に位置するので、椎間板も前が潰れて、後ろに出っ張るようなヘルニアを起こしやすい力のかかり方になってしまいます。

エビデンスある腰痛対策は「運動+教育」

(※写真=PIXTA)

 

腰痛対策として「姿勢を良くしましょう」ということや「床にあるものを持つときにはしっかりと腰を下ろし、膝を曲げた状態から持ち上げましょう」ということなど、生活において注意すべき点がありますが、これらは分類としては「患者教育」というものになります。

 

患者さんからすると、あまり気分がいい言葉ではないので、医療現場では「患者さんへのご指導」と言い換えています。この患者さんへのご指導に加え、腰のコルセットもよく使われます。しかし、それらだけでは治療・予防効果は統計的にはないことが示されています※4

 

しかし一方で、「患者さんへのご指導」に加えて「運動療法」を行うと、治療・予防効果が出てきます。つまり、基本として、患者さんへの生活指導などは重要なのですが、もしかしたら、それ以上に重要なのは運動療法だろう、と言われています。

座っていると椎間板が「後ろに飛び出しやすい」

(※写真=PIXTA)
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運動療法にも多くの種類があるわけですが、どうしてもデスクワークで座っている時間が長いという人の場合に考えたいのが、前半でもお伝えした椎間板を前から後に押してしまう力です。

 

それを少しでも緩和するためには、やはり座っているときにも腰が丸まることなく(と言っても、強く反らすこともなく)、良い姿勢で座ること。そそのための環境づくりとして、ランバーサポートと呼ばれる腰に当てるクッションを使うことなどが推奨されます。

腰を逆に反らすと椎間板が戻りやすい…という仮説も

(※写真=PIXTA)
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さらに、前かがみで椎間板に前から後への圧力が加わるとしたら、運動療法、それもセルフエクササイズでカンタンにできるものとして、上体反らしという運動があります。

 

これは昔から腰痛体操として有名な体操の1つでもあったわけですが、最近では東京大学の松平浩先生が「腰痛これだけ体操」として普及なさっています。

 

やり方はシンプルで、立った状態で骨盤に両手を当てて、両手で骨盤を前に押すような感じで腰から背中全体を反らす運動です。座りっぱなしが1時間くらい続いたら、1度立って、この体操をすることが推奨されています。

 

また、腰痛の対策として、体幹のインナーマッスルと言うべき腹横筋や多裂筋などのローカル筋に刺激を加えるエクササイズ(体幹トレーニングやコアマッスルトレーニングと呼ばれます)が効果的だとするエビデンスも蓄積されつつあります※5

 

ローカル筋というのは体幹を大きく動かす力や働きはありませんが、常に背骨を安定させてくれる大事な筋肉です。身体が動くときに、最初にこのローカル筋が働くことで背骨が安定して、腰痛などを予防してくれています。

 

(※写真=PIXTA)
[図表1]腹横筋 (※写真=PIXTA)

最も重要と考えられているローカル筋が「腹横筋」というもので、この筋肉は別名「コルセット筋」と呼ばれています。その名の通り、コルセットのように体幹をぐるりと一周巻き、覆っているようなインナーマッスルです。

 

この腹横筋に最も効率よく刺激を加えられるというデータがあるのが「ハンドニー」というエクササイズです。四つん這いになって、右手と左脚、左手と右脚と、体格の手足を伸ばすエクササイズです。注意点は体幹(背骨)を反らさず、丸めず、安定した状態でスムーズにゆっくり手脚を伸ばしていくこと。「5秒ほど伸ばし、ゆっくり戻す」動作を繰り返します。

 

(※写真=PIXTA)
[図表2]ハンドニー (※写真=PIXTA)

おわりに

座る時間が長いことによる健康リスク、腰痛リスクとその対策としては、

 

●座る時間を短くすること

●座っているときの姿勢に気をつけること(腰を丸めない)

●運動療法として、痛くない範囲での身体反らしやインナーマッスルエクササイズ(体幹エクササイズ)を行うこと

 

などが医学的根拠をもとに推奨されます。

 

出典

 

※1 Alpa V. Patel, et al. Am J Epidemiol. 2010 Leisure Time Spent Sitting in Relation to Total Mortality in a Prospective Cohort of US Adults

 

※2 A L Nachemson. Spine (Phila Pa 1976). 1981 Disc pressure measurements

 

※3 H J Wilke, et al. Spine (Phila Pa 1976). 1999 New in vivo measurements of pressures in the intervertebral disc in daily life

 

※4 Daniel Steffens, et al. JAMA Intern Med. 2016 Prevention of Low Back Pain: A Systematic Review and Meta-analysis

 

※5 Su Su Hlaing, et al. BMC Musculoskelet Disord. 2021 Effects of core stabilization exercise and strengthening exercise on proprioception, balance, muscle thickness and pain related outcomes in patients with subacute nonspecific low back pain: a randomized controlled trial

 

 

歌島 大輔
横浜町田関節脊椎病院
整形外科医

 

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本記事は、株式会社クレディセゾンが運営する『セゾンのくらし大研究』のコラムより、一部編集のうえ転載したものです。