(※写真はイメージです/PIXTA)

クリニックの開業場所が決定したら、今度は銀行からの資金調達の準備が必要です。どんなによい場所が見つかっても、資金調達できなければ開業の夢を叶えることはできません。今回は、資金調達の流れについて説明していきます。今回は、クリニックのウェブサイトの内容に課せられている規制と留意すべき点について解説します。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

開業を目指すドクターから寄せられる質問は、主に3つ

開業されるドクターに「資金調達について質問はありますか?」とお聞きした場合、おおむね以下の3点について疑問が集約されるように思います。

 

①「私は銀行からの借り入れはできそうですか?」

②「融資の可否はどのように判断されるのですか?」

③「どのような流れで銀行との交渉が進んでいくのですか?」

 

これらの疑問について具体的に答えながら、融資を受ける際のポイントについてみていきましょう。

①「自分は銀行から借り入れはできそうですか?」

一番気になるのは、ズバリ「銀行から借り入れはできそうか?」ということだと思います。

 

銀行融資は個別性が強いので、一概に「大丈夫ですよ」と断言することはできませんが、融資してもらえる確率を上げることは可能です。

 

ここからは確率を上げるための方法についてお話ししていきます。

 

対応策①経験が豊富な税理士(またはコンサルタント)に融資交渉を任せる

私の経験上、ドクターご自身が銀行と交渉をして融資が上手くいく確率は、あまり高いとはいえません。

 

融資の交渉は、経験が豊富な税理士やコンサルタントに任せたほうがよいでしょう。税理士やコンサルタントは銀行との融資交渉に馴れており、勘所がわかっているため、融資が通る確率が高くなると思います。

 

対応策②複数の銀行に打診(相談)する

融資の打診は2行、できれば3行にしたほうがよいでしょう。仮にもし1行だけに相談した場合、その1行の判断だけで開業できるかどうかが決まってしまいます。経験上、複数の銀行に打診をしても、1行もしくは2行から融資を断られることも珍しくありません。融資が通らないことで開業を断念することがないよう、複数の銀行に打診することをおすすめします。

 

また、1行だけでは、金利や返済条件などの条件面もその銀行に委ねることになってしまいます。複数の銀行に打診することで、よりよい条件での融資を選ぶこともできるのです。

 

この場合、「ほかの銀行に融資の相談をしたことがバレると失礼ではないか?」との質問を受けることがありますが、むしろ「貴行のほかに〇〇銀行、△△銀行の2行にも相談をしています」と正直に伝えたほうがよいでしょう。銀行側も「複数の銀行に相談するのは当たり前」だと思っているはずです。

 

対応策③知人に銀行を紹介してもらい事前にアポイントを取る

融資の相談に行く前には、必ず知人に取引銀行を紹介してもらい、事前に融資相談のアポイントを取っておきましょう。銀行はアポなしの訪問を嫌がりますし、それが「お金を貸してください」という話であればなおさら怪しまれます。開業ドクターが勇気を出して、いきなり銀行を突撃訪問しても相手にされない可能性が極めて高くなります。

 

なるべく医院経営が順調で流行っているクリニックの先輩ドクターにお願いして、「今度自分の後輩が開業するから相談に乗ってやってくれないか?」と銀行に根回しをしてもらうことをおすすめします。

 

銀行からすると、紹介者(この場合は先輩ドクター)のイメージの先に貴方のイメージを持っています。流行っているクリニックの先輩ドクターからの紹介であれば、銀行からの貴方の印象がよい状態で融資相談に臨むことができるのです。

②「融資の可否はどのように判断されるのですか?」

融資の可否については、下記の順番で総合的に判断されるように思われます。

 

第一順位 貸金の保全可能性

第二順位 事業計画の緻密さ

第三順位 開業するドクターの診療実績や人柄

 

具体的に見ていきましょう。

 

第一順位 貸金の保全可能性

このなかで最もウエイトが大きいのが貸金の保全可能性、つまり「貸したお金が返ってくるか?」ということです。具体的には、両親の資産保有状況はどうか、担保を持っているか、などといった点が重視されます。また、奥様がドクターの場合も返済能力が高いと考えられて、加点要素になるといえます。

 

第二順位 事業計画の緻密さ

次に事業計画の緻密さについては「設備が過大投資になっていないか?」という点が、銀行に見られるところだといえます。クリニックの土地建物を自己所有する、または、他のクリニックにはないような高額医療機器が開業計画に入っていると「もう少し設備投資の額を下げてください」といわれることがあります。

 

第三順位 開業するドクターの診療実績や人柄

そして最後に見られるのが、開業するドクターの診療実績や人柄です。「診療実績や人柄がいちばん大事なのでは…?」という声が聞こえてきそうですが、こと開業融資に関しては(残酷なようですが)参考程度にしか見られていないように感じています。

③「どのような流れで銀行との交渉が進んでいくのですか?」

開業融資は以下のような流れで進みます。

 

第一段階 開業計画書の作成

第二段階 銀行との面談

第三段階 融資銀行の決定

 

第一段階 開業計画書の作成

まず、税理士(またはコンサルタント)と一緒に開業計画書を作成します。細かい部分は税理士に任せておけば大丈夫ですが、開業計画の要となる内容については、ドクター自らの考えを持っておくべきだといえます。

 

以下のような点はドクターご自身で事前に考えをまとめ、銀行員に直接自分の言葉で話せるくらいまで、事前に準備しておきましょう。

 

●医師になった理由

●開業を決意するまでの経緯

●その場所で開業する理由

●想定される来院患者数

●診療単価(患者1人当たりの保険点数は何点か?)

●診療時間と診療日数(近隣競合医院の診療時間を調べておく)

●人員計画(看護師や事務スタッフを何人採用するか)

 

私の経験上、開業計画書をドクターと一緒に作る際、「先生の診療単価はいくらで計算すればいいですか?」と尋ねると「私の診療単価ですか? 考えたことなかったなぁ…」と首をひねる先生が意外と多くいらっしゃいます。しかしこれは、ラーメン屋を出店しようとする人が、ラーメン1杯をいくらで提供するのか分かっていないのと同じです。いまの勤務先の医院で何人の患者を診察し、その結果、保険点数が何点になっているのかを調べてみてください。

 

たとえば1日20人の患者を診察し、保険点数が20,000点だとすれば、診療単価は、

 

20,000点×10円÷20人=10,000円

 

となります。

 

第二段階 銀行との面談

開業計画書が完成したのちに、税理士と一緒に銀行へ面談に行くことになります。できれば1日にまとめて一気に複数行を回るほうが効率的でしょう。

 

どの銀行に面談に行っても、当日「わかりました、融資しましょう!」といってもらえることはありません。

 

銀行は面談後に融資の稟議書を書き、本部とのやり取りをしますので、通常は返事をもらうまで1カ月くらいかかります。

 

その面談の際に「この開業計画についてどう思われますか?」と銀行員に尋ねると、「頑張って本部と掛け合ってみます!」「どうでしょうねぇ…」といった口ぶりから、融資に対する銀行員の姿勢を感じることができます。経験上、その際の返事の印象が、銀行員が融資に対して抱いている印象の本音であるような気がします。

 

第三段階 融資銀行の決定

複数の銀行から融資OKの返事をもらった場合、どの銀行から融資を受けるのかを決める必要があります。

 

その際の判断のポイントは、

 

①返済期間が長い

②日々の使い勝手がいい(近所の銀行)

③金利が低い

 

の3点だといえます。金利が安いかどうかにばかり目が行きがちですが、最も大事なのは返済期間が長い(=月々の返済額が低い)ことだと思います。

 

開業後の資金繰りを考えると、毎月の返済額は少ないほうがいいに決まっています。

 

金利に関しては、開業後、医院経営が軌道に乗り、資金が潤沢に貯まった段階で繰り上げ返済を検討すればいいだけのことです。返済期間が15年と20年の銀行がある場合は、迷わず20年の銀行を選んでください。

 

以上、開業時の資金調達について説明してきました。これらのお話が少しでも開業なさるドクターの参考になれば幸いです。

 

 

鶴田 幸之
メディカルサポート税理士法人  代表税理士