患者様の「また来院したい」、スタッフの「働きやすい」の両立を目指す
クリニックの内装は、クリニックの立地条件、対象となる診療科目やターゲットとなる患者層、治療方針や集患の戦略により、さまざまなバリエーションが必要です。クリニックのターゲットとなる患者様・ご家族がまた来院したいと思える演出は当然ですが、勤務するスタッフの満足感や、動線などのオペレーションにも大きく影響が出てきます。
先生ご自身の意見のみならず、患者・家族視点やスタッフの視点を含め、自分自身や家族が患者として受診した時に、良い印象を持ってもらう工夫がより一層求められます。
クリニックの内装は、ドクターの「将来的なビジョン」にもリンクする
20年以上前に開設されたクリニックや、承継案件にみられる古いクリニックでは、しばしばよく似た内装やレイアウトがみられます。
入り口からすぐの場所が受付で、待合室のイスは、白や茶系のビニール製ベンチ、もしくは木製の1人崖の椅子。床や壁紙は単色のビニールもしくは水をはじく素材…。
しかし近年では、内装もバラエティに富んだものになってきました。内科・小児科等のプライマリケアを担うクリニックなら、安心感のあるソフトな照明や、ぬくもりを感じる木製の素材が多用されますが、自費診療のクリニックは高級ホテルさながらで、一見しただけでは医療機関とは思えないゴージャスな内装だったりします。
そこまで個性的でなくても、受付・壁・床・家具等の材質の使い分けで、巧みなイメージ戦略を試みるケースもあります。
新型コロナウイルスの流行以降、クリニックにとって「清潔感のある環境」のPRは、これまで以上に重要なものとなっています。内装によって院内感染への意識や配慮を伝えることで、患者様の不安や緊張をなくし、診療をスムーズにする効果があるからです。
不安を抱える患者様を安心させるには、クリニック内の色調も穏やかで暖かな印象にすることも必要です。照明やフローリングの色調ひとつで、印象は大きく変わります。
木目調やLED電球などの光は一般住宅のリビングのイメージですが、使い方によってはむしろ、ワンランク上の医療や、患者様への配慮やおもてなしの気持ちを印象付ける効果が狙えます。
スタッフの動線の確保
スタッフの業務効率化にも、内装デザインは非常に重要です。医療ミスの減少、ケアの質やスピードの向上にも通じます。
とくに、診察室・処置室・受付の3つは、配置が悪いとスタッフの動線に混乱をきたします。業務が多忙を極めても、スタッフの動きが損なわれず、なおかつ視認性がよく、受診状況がしっかり把握できる構造となっていることが必要です。フロアのレイアウト上可能なら、これら3つを直線上に配置できるといいでしょう。
作業効率のよい設計は、スタッフの仕事へのモチベーションや質の向上、身体的・心理的なストレスの軽減にも大きく寄与します。
快適な労働環境を提供できればスタッフの離職率も下がり、それに伴ってスタッフの経験や知識も蓄積されていきます。気心の知れたスタッフが増えることで、クリニックにチームワークが生まれ、医療機関としてのパフォーマンスもいっそう発揮しやすくなります。
患者さんのプライバシーを守り、質の高い医療の提供
クリニックの診察室の構造も、医師やスタッフ、そして診察を受ける患者様のすべてが安全で快適に過ごせる空間でなければなりません。
診察室は、患者様やそのご家族と込み入った話ができるスペースであることが大前提です。ときには必要となる、予後の悪い疾患等の説明にもプライバシーを確実に守れる設計であることが求められます。そのためには、声が外部に漏れにくい素材選びやドア・パーティションの設置が重要となります。
診察室は、医師が作業しやすいよう、スペースに少しゆとりを持たせ、ドア素材、壁素材にも、気持ちを和らげるような素材や色を選ぶといいでしょう。
医師自身がリラックスした気持ちで患者様に向き合うことで、患者様のほうも受診の動機や症状などを話しやすくなります。緊張感が和らぐことで、医師と患者様の信頼関係が生まれやすくなり、提供する医療の質の向上へとつながっていきます。
内科・産婦人科に適した内装の例
内科・産婦人科のクリニックの内装の例として、参考となるプランをご紹介します。
受付は木目調の柔らかい印象のものとし、壁紙は明るく生活感のあるものを選択します。照明は、眩しすぎる蛍光灯のようなものは避け、ソフトな光のものを採用します。待合の椅子もできる範囲で幅を広くしてゆとりを持たせ、自宅リビングのような、リラックスできる空間を演出します。
スタッフ目線では、待合室から診察室・処置室には、直線的な動線の確保が理想です。それにより、ゆったりとお待ちいただいていた患者様を過度に緊張させることなく、スムーズに診察へとご案内できます。
バックヤードでは薬品や医療廃棄物の管理が万全に行えるよう配慮した構造とし、処置室前の準備室ではプラリバシーを守りつつ、スタッフからの視認性が維持できる直線の設計が必要です。
ご高齢の方や障害をお持ちの方が受診する見込みなら、フロアをバリアフリーとし、クリニック内での段差・待合室の導線などに配慮した設計とすることで、患者様はもちろん、忙しいスタッフの手を煩わせない構造にします。
以上のような例を参考に、スタッフにも患者様に喜ばれる、理想のクリニックの内装を整えてください。
武井 智昭
株式会社TTコンサルティング 医師