(※写真はイメージです/PIXTA)

開業準備、そして開業初日を迎えて一段落…。しかし実際は、開業初日がスタートラインだといえます。開業当初は患者が増加せずに四苦八苦するケースも多く、いくら優れた知識・技術・サービスを有していても、認知されていなければマーケティング・経営は成り立ちません。もし赤字経営が持続しれば、運転資金の追加融資が受けられず、閉院を余儀なくされてしまいます。ここでは、開業初期に重要となる集患スキームについて解説します。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

自院の存在が「知られていない」ことを前提に考える

医療機関のマーケティングの基本的概念として「まずは認知されること」が重要です。長年地域で開業を続ける伝統ある医療機関でも、地域では意外と知られていないこともあります。

 

医療は食料品や衣料品等と異なり、ニーズの発生が限定的です。1日に医療機関を利用する割合は、地域差こそありますが、全人口の4%程度で、大多数の方は急を要する医療ニーズを有していません。そのため、よほどのことがない限り、地域の医療機関の存在や傾向を知ることは少ないのです。この前提のもと、「自分のクリニックは、院長が思っているほど認知されていない」という状況を理解しておくことが重要です。

医療機関のマーケティングの基本

クリニックもその他の業種・ビジネスと同様、まずは患者様にその存在を「認知」してもらうところからがスタートです。その後、風邪の診療や生活習慣病等の疾患、あるいは発熱などの突発的な事態が発生した際、ホームページやSNS、口コミなどをきっかけに「試行=お試し受診」していただくのです。

 

この「試行」へのハードルが高いか低いかによって、今後の「継続」「口コミ発生による紹介」に大きな差が生じます。一般的には、患者様の15%以上に、「診療の継続」や「他者への紹介」が発生することをめざしていきます。

クリニックの認知度を高める「積極的な情報発信」の重要性

一般の方の場合、会社の健康診断での異常指摘(精密検査)、倦怠感といった体調不調、突然の発熱・嘔吐・咳といった症状、あるいは、生後2カ月から開始されるお子様の予防接種や健康診断といった、患者様側に受診のきっかけとなる「接点(タンジェントポイント)」が発生しない限り、医療機関への関心は上がりません。

 

オフィスビルが多い都会のクリニックの場合は、院長は普段からスタッフと協力し、ホームページのコンテンツの充実や、診療内容がすぐに理解できるイラスト等の掲載、SNSによる情報発信等を継続していく必要があります。

 

地方にあるクリニックの場合は、地元の地域包括支援センターへの挨拶、可能であれば講演会・健康相談イベントの参加、商工会議場への挨拶、周辺企業への周知、健康セミナー開催(製薬会社スポンサーでもよい)、地域広報やコミュニティ誌などへのコラム執筆などによる「オフラインの対策」も重要です。

 

医療情報(疾患など)の発信は効果的です。SNSのなかでもTwitter、LINE、Instagramなどをうまく組み合わせるとよいでしょう。なお、チラシ配りは費用対効果から推奨しません。

クリニック初診(お試し)を実現するための心理的な「促し」

まずは初診患者様を集めなければ、事業は始まりません。そして、十分な広報活動(認知向上)と同時に、行うべきこともたくさんあります。専門分野の表明、受けられる診療の明示、どういう雰囲気のクリニックで、どのような診療体制なのか、ドクターやスタッフの親しみやすさ、受診へのハードルなど、多岐にわたります。

 

一般的に、患者様が初めての医療機関を受診する場合、これまで受診してきた医療機関からの変更に伴う不安・緊張というネガティブな感情が起こりやすくなります。当然、心理的な抵抗が発生しますので、クリニックとしては、親切・フレンドリーな応対を期待させる「安心感」「親しみやすさ」のアピールが欠かせません。

 

そのためにも、ホームページや、前述のSNS動画を活用した院内の紹介、院長やスタッフの人柄がよくわかる動画の活用はおすすめです。

 

患者様の「初診お試し」を促すツールとしては、心理的なハードルが比較的低い、地域の健康診断(特定健康診断やがん検診)、インフルエンザ・新型コロナウイルスワクチン接種等の実施が適しています。そのためには、院長自身が診療・対応の幅を広げ、スタッフにも共有していく必要があります。

 

また、受診のハードルを下げるという意味では、待合室にも工夫が必要です。待ち時間を少なくすることも重要ですが、スクリーンを設置して対応できる診療内容を動画で流す、同伴するご家族もゆったりとくつろげるスペースを確保する、急性期医療機関のような緊張した空気を醸し出さないといった配慮が重要です。

 

増患の対象となるのは、受診した患者様ご本人だけではありません。同伴のご家族様にも好印象を持っていだたくことで、さらなる増患へとつなげていくことができるのです。

経営に重要な継続受診 ~院内スタッフの総力戦~

お試しの受診(初診)をしていただいても、その後に継続した受診をしていただかないと、口コミ等による増患にもつながりませんし、安定した経営が成り立ちません。

 

経営が安定しているクリニックは8割前後が再受診患者であり、残り2割が初診(新患)です。初診は「自宅から近い」「口コミがよかった」といった理由で集まりますが、再受診の場合は、初診の受付・問診・待ち時間・検査や処置・会計の全プロセスで、不満・不安がないことが必要です。

 

患者様が待ち時間を快適に過ごせるよう配慮するとともに、待ち時間の短縮にも努め、手に取られる雑誌の更新、定期的な床清掃等のクリンリネスも欠かせません。

 

とくに初期においては、スタッフの接遇も重要です。「こんにちは」「どうされましたか?」「ご気分はいかがでしょうか?」といった挨拶や声かけといった配慮があれば、患者様は「応対がしっかりしている」と感じます。

 

また、症状がつらそうな患者様がいらっしゃらないか目を配り、こまめなお声がけをするだけでなく、寒気がある方には毛布を用意する、呼吸がつらい等の緊急性がある場合は直ちに処置室へご案内するといった、患者様の視点に立った応対を、全職員が連携のうえ、迅速かつ網羅的に行うことで、着実に好印象が形成されていくのです。

 

 

武井 智昭
株式会社TTコンサルティング  医師