母親の介護ではじめて知った「衝撃事実」
Aさんは、食品加工を行う中小企業で経理課に勤める55歳のOLで、81歳の母親と二人暮らしをしています。商店街で定食屋を営んでいた父親はAさんが大学3年生のときに心筋梗塞で急死してしまいました。
住まいはこの定食屋の奥にあり、父親が亡くなったあとはアルバイトを一人だけ雇いながらも母親が細々と続けていました。しかし、体調面もあり70歳になったのを機に店は閉めています。改築するための大きなお金もなかったため、店の部分はシャッターを閉めてそのままの状態でいまも暮らし続けています。
Aさんは、基礎年金だけ受給している母親を扶養しながら、自分の老後のためにとなんとか1,000万円ほどの貯蓄は作りましたが、生活はそれほど楽ではありません。それどころか、50歳を過ぎて年収も頭打ちとなり、住宅ローンなどの借り入れはありませんでしたが、「定年退職後はどうやって生活をしていこうか」と頭を悩ませる日々を送っていました。
母親が心配で、お嫁にもいかずに真面目に暮らしていたAさんですが、ある日、母親が店舗部分で転倒し骨折してしまい、車いす生活となってしまいます。Aさんには1つ年下の妹がいますが、30年も前に遠方に嫁いでいるために簡単に頼ることもできません。
突然の出来事にAさんは戸惑いましたが、手術や入院費用、その後の介護費用など、それまではあまり深く考えなかった母親のお金の問題に直面することになります。
困ったのは医療保険が80歳で切れてしまっていて1円も受け取れなかったこと、母親の預金通帳に思ったほど預金がなかったことです。
母親に確認すると「お父さんとは20年以上一緒にいたけれど遺族年金は1円ももらえなかったし、生活はカツカツで、保険会社から出た保険金もあなたたちの学費や店の修繕なんかで消えてしまったのよ」と言います。
考えれば、父親も母親もずっと自営業者として定食屋を営んでおり、国民年金しか加入していませんでした。国民年金の遺族年金である遺族基礎年金は、対象となる「子」がいれば受け取れますが、「子」がいない場合には支給されない仕組みになっています。つまり、遺族基礎年金は子どものための年金といえます。
なお、遺族基礎年金での「子」とは18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方をさす、とされています。
亡くなったお父さんには、Aさんと妹さんという2人のお子さんがいますが、亡くなった当時は2人とも大学生になっていたため、1円も遺族年金はもらえなかった、ということです。
Aさんはショックを受けますが、父親が亡くなり遺族年金が受け取れなくても自分と妹をちゃんと卒業させてくれた母親のことを思い、感謝の気持ちで涙しました。