米国ではビットコインの先物ETFが認められている一方、現物ETFはいまだ承認されていません。そのようななか、現物ETFを否決された米企業「グレースケール」が、否決した同国の証券取引委員会を相手取り「現物ETF否決の理由が恣意的である」として提訴し、2023年8月末に勝訴しました。この結果を受けて、暗号資産市場は今後どのように変わっていくのでしょうか。マネックス証券の暗号資産アナリスト松嶋真倫氏が解説します。
乱高下するビットコイン価格…相場の命運を握る「現物ETF裁判」の結果と今後【暗号資産アナリストが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

グレースケール「勝訴」も…一筋縄ではいかない暗号資産市場

2023年8月末、米国の暗号資産投資信託会社グレースケールが、自社で提供するビットコイン投資信託「Grayscale Bitcoin Trust(以下、GBTC)」のETFへの転換について、証券取引委員会(以下、SEC)に再審査を求める裁判で勝訴しました。

 

この判決では、SECが米国ですでに承認しているビットコインの先物ETFとGBTCとの違いについて十分に説明できておらず、SECによる否決の理由が恣意的なものであるというグレースケールの主張が認められました。

 

これまでSECは、ビットコインの現物市場と先物市場を分けた上で、前者については投資家保護や相場操縦などの問題が大きいという理由で現物ETFの申請を否決してきました。

 

しかし今回、裁判所はビットコインの現物市場で起こりうる問題は先物市場にとっても同じリスクとして捉えられるとし、現物ETFを否定する合理的な説明にはならないと判断しました。

 

つまり、SECは今後、ビットコインの現物ETFを否決する際には先物ETFとの違いを含めてより具体的な説明を行う責任があります。

 

[図表1]出所:Trading view
[図表1]出所:Trading view

 

これを受けて、米国ではビットコインの現物ETFに対する期待が高まり、ビットコインの価格は一時BTC=400万円台まで急騰しました。

 

しかし、その判決があってから数日後、SECは現在まで複数の会社が申請しているビットコインの現物ETFの審査を10月まで延期すると発表しました。延期対象にはブラックロックやフィデリティ、ウィズダムツリーなど大手金融機関によるオファーが含まれています。

 

これらの申請は、一度は延期されるだろうと予想されていましたが、グレースケール勝訴後の反動もあり、ビットコインは失望売りによってたちまちBTC=370万円台まで下落しました。

 

米国におけるビットコインの現物ETFの実現は先延ばしとなっていますが、グレースケールの判例はその実現に向けた大きな一歩と言えるでしょう。

 

240日間の猶予期間中にSECが新しい理由を持ち出して再びノーと突きつけるのか、あるいはイエスと判断して暗号資産市場の悲願が達成されるのか、今後の対応によってビットコインの価格も大きく動くことが予想されます。