米国ではビットコインの先物ETFが認められている一方、現物ETFはいまだ承認されていません。そのようななか、現物ETFを否決された米企業「グレースケール」が、否決した同国の証券取引委員会を相手取り「現物ETF否決の理由が恣意的である」として提訴し、2023年8月末に勝訴しました。この結果を受けて、暗号資産市場は今後どのように変わっていくのでしょうか。マネックス証券の暗号資産アナリスト松嶋真倫氏が解説します。
乱高下するビットコイン価格…相場の命運を握る「現物ETF裁判」の結果と今後【暗号資産アナリストが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

グレースケールが計画する「ビットコイン投資信託」ETF転換の動機

GBTCは、今や運用額が2兆円を超える世界最大のビットコイン投資信託となっています。以下では、その仕組みと人気の理由について解説します。

 

GBTCはビットコインへの投資をより手軽にする目的で作成されました。本来、ビットコインへ投資する際にはウォレットや秘密鍵の管理といった専門知識を要します。企業からすればその管理手法や会計ルールなども明確化されていないため、ビットコインを直接的に保有することはなおさらハードルの高いものとなっています。

 

しかしGBTCの登場によって、投資家は通常の証券口座を通じてビットコインへ間接的に投資できるようになりました。まずグレースケールが集めた資金で実際のビットコインを購入し、その価値と連動する形でGBTCを発行します。投資家はそれを株式に準じたものとして購入することでビットコインへ投資することができるのです。

 

ところが、GBTCはクローズドエンド型の投資信託で、期限前の払い戻しや中途解約ができないという問題があります。GBTCはOTC市場でしか売却することができず、価格はそこでの需給関係によって決まるため、ビットコインの純資産価値と市場価格の乖離が生じてしまいます。これを「GBTCプレミアム」と呼び、需要が過度に大きい時はプラス乖離、需要が過度に小さい時はマイナス乖離に動きます。

 

[図表2]出所:The Block
[図表2]出所:The Block

 

GBTCは2013年に私募でスタートし、2015年からは一般向け販売も開始して、多くの投資家から人気を集めました。しかし、2021年以降はその人気が衰退し、GBTCプレミアムはマイナス乖離が急拡大しています。

 

これは、暗号資産市場全体が悲観ムードになっていることも一因ですが、米国においてビットコイン関連のファンドやETFなどGBTC以外でビットコインへ間接投資できる商品が増えていることが影響しています。

 

グレースケールはGBTCをETFに転換することで、オープンエンド型の投資信託として再起を図ろうとしています。

 

今回の判決では、これについてSECによる再審査を受けることになりました。その申請が認められた場合には、拡大したGBTCのマイナス乖離も解消されるでしょう。

 

何よりGBTCを介してビットコインへ間接的かつ流動的に投資できる環境が整い、機関投資家層を含む幅広い投資家が暗号資産市場に参入することが期待されます。

 

 

松嶋 真倫

マネックス証券 マネックス・ユニバーシティ

暗号資産アナリスト