病院で処方される薬は多くの場合、西洋医学の考え方をもとに処方される「西洋薬」です。しかし、以前に比べ「病院で漢方薬を処方される人が増えている」と、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師はいいます。「効果が弱い」「ちょっと胡散臭い」などネガティブなイメージもある漢方ですが、実際はどうなのでしょうか。詳しくみていきます。
“ちょっと胡散臭い”イメージもある「漢方薬」…本当に効くのか【医師の回答】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「西洋医学」は“狙い撃ち”、「漢方医学」は“個別に使い分け”

西洋医学の特徴は主に下記の4つです。

 

1.客観的で分析された治療を行う

2.器官・臓器で起こっている物質的な変化を重視する

3.画一的な治療を行う

4.使用する薬剤は精製された純粋な薬物を用いる

 

西洋医学では、ある疾患に対してどのような薬剤を使用するか決めるときには「臨床試験」を行います。治療したい病気に治療薬の候補となる薬剤を投与し、もっとも効果が実証された薬剤がその疾患の治療薬となるのです。

 

このようにして治療薬を決めているため、ひとつの病気に対してピンポイントに治療しやすく、「高血圧の治療薬はこの薬」、「細菌感染にはこの薬」、といったように病名に対して薬剤を処方します。使用する薬も精製されたものを使うため、病名や検査によって異常などがはっきりしているときに高い効果を発揮します。

 

つまり西洋医学では、「①患者さんが症状を訴えたら、②まずはその原因となる臓器の異常を確認するために血液検査や画像検査などの検査を行い、③そこで異常が確認されて病名がついたら、④その病気に対する治療薬を処方する」という流れになります。

 

一方、漢方医学の特徴は主に下記の4つです。

 

1.自然科学的で伝統的・経験的な治療を行う

2.臓器にピンポイントな治療というよりも、心と身体を総合的にみる

3.体質や症状に対して処方を行う

4.天然物がベースの生薬を混合した薬剤を用いる

 

漢方薬の処方は、患者の「証」によって異なります。「証」とは、病気になっている患者の体の状態を表したもので、「虚・実、寒・熱」などの分類があります。

 

「虚証」は、体力が弱って病気への抵抗力が落ちている状態のことを指し、「実証」は体力があって病気への抵抗力が強い人を指します。「寒証」は寒気や冷えを感じ、熱が足りていない状態とされ、「熱証」は火照りやのぼせを感じ、熱が溜まっている状態とされます。

 

このような、「証」と症状から適切な漢方を選ぶというのが漢方薬の基本的な考えです。たとえば、同じかぜに対しても実証の人には葛根湯(かっこんとう)を用い、虚証の人には香蘇散(こうそさん)を用いるというように使い分けられます。

 

漢方医学は、患者さん1人ひとりの「心と身体」を総合的に捉える

西洋医学では病気と薬剤がストレートに対応している一方、このように漢方は患者の状態と症状から適切なものを医師が選択して処方する、“個々のための医学”といえます。そのため細かい臨床検査はしにくく、患者の細かい状況に合わせて処方を検討する必要があります。

 

しかし裏を返せば、明らかな異常などがなく病名がわからない患者さんに対し西洋医学の薬が使いにくい場合は、体の状況や症状をヒアリングしたうえで漢方薬を処方することで症状の改善を見込めます。

 

発病には至っていないものの病気になりかけていて症状が出始めている「未病」の状態のときや、「更年期障害」など病気ではなく年齢による体の変化によって症状が引き起こされているとき、病気ではなくても体質などからこむらがえりなどの症状が起こってしまうときなど、漢方薬は非常に有用です。

 

また、精製された単一の成分を使う西洋薬と異なり、さまざまな生薬が混合されている漢方薬は、1つの薬剤でさまざまな症状に対応することができます。

 

すなわち漢方医学は、患者さま個々に異なる病態を、心と身体の両面から総合的に捉え、身体の全体的なバランスを整えていくことができるのです。