病院で処方される薬は多くの場合、西洋医学の考え方をもとに処方される「西洋薬」です。しかし、以前に比べ「病院で漢方薬を処方される人が増えている」と、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師はいいます。「効果が弱い」「ちょっと胡散臭い」などネガティブなイメージもある漢方ですが、実際はどうなのでしょうか。詳しくみていきます。
“ちょっと胡散臭い”イメージもある「漢方薬」…本当に効くのか【医師の回答】 (※写真はイメージです/PIXTA)

漢方薬は「生産金額・輸入金額」ともに増加

漢方製剤等の薬価は単純平均で約86円/日とされていますが、厚生労働省の「薬事工業生産動態統計年報」によると、2018年の医療用漢方製剤等の生産金額は前年比13.9%伸長1,513億9,600万円であることがわかっています。

 

また、日本東洋医学会と日本漢方製剤協会の調査によると、[図表1]のとおり、医療用漢方製剤の診療ガイドラインへの掲載数は2011年の59件から2020年には149件へと約3倍に増えています。

 

Type A:引用文献が存在し、エビデンスと推奨のグレーディングがあり、その記載を含むもの。 Type B:引用文献が存在するが、エビデンスグレードと推奨のグレーディングのないもの。 Type C:引用文献も存在せず、エビデンスグレードと推奨のグレーディングのないもの。
[図表1]診療ガイドラインにおける漢方製剤の掲載数の推移 Type A:引用文献が存在し、エビデンスと推奨のグレーディングがあり、その記載を含むもの。
Type B:引用文献が存在するが、エビデンスグレードと推奨のグレーディングのないもの。
Type C:引用文献も存在せず、エビデンスグレードと推奨のグレーディングのないもの。

 

西洋薬のように、“1:1”の漢方薬も増えている

また、最近は漢方薬も西洋薬と同様に臨床試験が行われ、特定の病気に対して効果があると実証されたものも多く出始めています。

 

インフルエンザには「麻黄湯(まおうとう)」、手術後の腸閉塞には「大建中湯(だいけんちゅうとう)」という漢方薬がそれぞれ有効であると実証されているほか、口内炎には他の西洋薬と並んで「半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)」が推奨されています。

 

以下の[図表2]は、漢方製剤の生産及び輸入金額ランキングを一部抜粋し作成したものです。みなさんの知っている漢方製剤はありますでしょうか?

 

出所:日本漢方生薬製剤協会総務委員会「漢方製剤等の生産動態―令和3年『薬事工業生産動態統計年報』から」p5をもとに筆者作成
[図表2]漢方製剤の種類別生産及び輸入金額ランキング 出所:日本漢方生薬製剤協会総務委員会「漢方製剤等の生産動態―令和3年『薬事工業生産動態統計年報』から」p5をもとに筆者作成

需要拡大の一方、「原料」の安定供給に課題

このように、漢方薬の需要拡大にともない生産数も増加する一方で、「原料」の供給には課題が残っています。

 

医療用漢方製剤は148あり、処方で使用されている原料生薬は136種類ですが、そのうち国内においても栽培されている生薬は56種類あります。とはいえ、国内で使用される原料のうち約80%は中国からの輸入に頼っているのが現状です。たとえば、使用量が多いカンゾウやブクリョウ、タイソウ、ハンゲなどは、ほぼ全量を中国から輸入しています。

 

また、漢方薬の原料には栽培年数が長い生薬も多くあり、ニンジン、シャクヤク、ボタンピ、ダイオウは 5~6年、さらに樹木系のケイヒなどは 10 年以上かかるものもあります。したがって、国内栽培のみではまかなえていません。

 

さらに国内では、2021年に発覚した「小林化工・日医工問題」に端を発した「製造管理・品質管理」に起因する問題から医薬品供給に問題が生じています。漢方製剤の国内需要拡大にともない、安全で安定した確保のために、国内における生薬栽培供給も課題となってくるでしょう。

 

まとめ

今回みてきたように、漢方医学は科学的解明が進み、医療の現場で使われる機会が増加しています。

 

西洋薬と比較すると病名と1:1対応になっていないことから、その効き目がわかりにくくどうしても「本当に効くのか」とマイナスイメージを持たれがちな漢方薬ですが、患者さんの体質と症状に合わせて処方でき、上手に使うことで西洋薬では解決できない問題をズバッと解決してしまうポテンシャルを秘めています。

 

西洋医学と漢方医学は決して相反する存在ではありませんから、両者をうまく組み合わせることが重要です。

 

 

秋谷 進

東京西徳洲会病院小児医療センター

小児科医