(※画像はイメージです/PIXTA)

健康保険証の新規発行廃止にともない、今後は「マイナ保険証」の利用が拡大すると予想されます。このような取り組みは、クリニックにどのような影響およぼすのでしょうか。想定される業務の変化や患者対応について、株式会社船井総合研究所の川本浩史氏が解説します。

健康保険証の新規発行廃止…医療機関はどう変わる?

令和6年12月2日、健康保険証の新規発行が廃止されることが決定しています。代わりにマイナンバーカードを利用した「マイナ保険証」への移行が本格的に進むことになるでしょう。

 

従来の健康保険証は、紙やプラスチックカードで発行され、保険者ごとに異なるデザインやフォーマットが使われていました。これにより、医療機関側でも保険証の種類に応じた確認作業が必要となり、事務負担が増加していたのです。また、患者が保険証を忘れる、紛失するなどのトラブルも少なくありませんでした。

 

しかし、マイナ保険証の導入によってこれらの問題は解消されると考えられます。それだけでなく、国民一人ひとりの医療情報がマイナンバーカードと紐づけられることで、どの医療機関に行っても迅速かつ正確な医療・健康情報の確認が可能となるなど、医療期間における業務の効率化とともに、医療の質向上にも寄与することが期待できるでしょう。

クリニックへの影響は?

では、マイナ保険証の利用がさらに広がってくると、クリニックにはどのような影響があるのでしょうか。

 

マイナ保険証の利用率(※)は2024年7月時点で11.13%とされていますが、最も高い富山県で18.00%、最も低い沖縄県では4.75%と大きな差があります。さらにこの利用率は診療所だけでなく病院や薬局も含んだ数値のため、医科診療所における利用率はさらに低いといえるでしょう。

(※) 厚生労働省『第181回社会保障審議会医療保険部会資料』(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001298805.pdf)

 

このように、現時点では”圧倒的少数派”であるマイナ保険証の利用者が急速に増えることで、受付業務が大きく変わることが考えられます。

 

今までは「患者さんがマイナ保険証を持っていない」前提で受付業務を行っていたため、スタッフがカードリーダーの使い方に慣れていないというケースも少なくありません。

 

仮に、全国平均よりも高い利用率を誇っているクリニックであっても、利用者が一気に増えることで『オンライン資格確認待ち』が生じる可能性もあります。今までは1台のカードリーダーで賄えていたものが、2台、3台と導入しなくては受付が回らなくなってしまうためです。

 

さらに、既存の健康保険証が「使えなくなる」という誤解から、窓口での問い合わせが増えることも想定されます。特に高齢者やITに不慣れな患者さんに対しては、クリニックから正しい知識と対応を伝えなければならない場面も出てくるでしょう。

 

つまり、クリニックへの影響としては、

 

受付業務フローの変化

ハード面への影響

スタッフによる問い合わせ対応

 

の3つに分けられます。

今からクリニックが行うべき対応は?

ここからは、クリニックが今のうちから行っていくべき対策を考えていきたいと思います。

 

①受付業務フローの変化

今後、従来の健康保険証ではなくマイナ保険証による受付を希望する人が急速に増えてくることが想定されます。現時点でマイナ保険証による受付を積極的に行っていないクリニックでは、急ぎ受け入れの準備を進める必要があるでしょう。

 

また、もう1点想像しておかなければならないのは、マイナ保険証による受付が100%になるには、まだまだ時間がかかるということです。つまり、しばらくの間は従来の健康保険証による受付とマイナ保険証による受付の「ダブルスタンダード」が続くことが予想されます。患者さんへの受付時の声掛け一つから、マニュアルの整備を進めておけると安心です。

 

②ハード面への影響

現状の利用率の高低に関わらず、多くのクリニックにおいて現状のカードリーダー台数では足りなくなる、という可能性を視野に入れて動くべきでしょう。カードリーダー購入の手続きだけでなく、どこに配置するのか等のスペースの問題、また必要に応じて回線工事などについても考えておく必要があります。

 

また、マイナ保険証の利用が急速に進むことで、カードリーダーや工事の供給が追いつかなくなる、ということも考えられます。なお、導入にあたっては今後も国や自治体からの補助が想定されるため、アンテナを高く保ち上手く活用しながら、早めに取り組んでいきたいところです。

 

③スタッフによる問い合わせ対応

さらに、マイナ保険証を持っていない人や、マイナ保険証を使いたくないという人からの問い合わせが増えることも想定されます。考えられる対応は以下のとおりです。

 

・マイナンバーカードを持っていない人への対応

・マイナンバーカードを持っているが、マイナ保険証の利用登録をしていない人への対応

・マイナンバーカードを持ちたくない人への対応

 

このような多岐にわたる問い合わせについて、「クリニックとしての対応方針」と「各問い合わせに対するトークスクリプト」をマニュアルとして準備しておくべきでしょう。また状況は時間が経つごとに変わっていくことから、定期的なマニュアルの見直しも大切です。

高まる「マイナ保険証」の重要性…スムーズな導入のために

マイナ保険証の利用拡大は、単なる保険証のデジタル化にとどまらず、国全体の医療システムのデジタル転換(医療DX)の基盤となる重要な施策です。今後は電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスとの連携も進むと想定されるなか、これからの日本における医療提供体制において不可欠な要素となるでしょう。

 

クリニックにとってみると、短期的には受付業務や患者対応の手間、カードリーダーの準備といった事務負担の増加が懸念されます。しかし、長期的にはさまざまな場面での業務効率化が期待できるでしょう。

 

一時的な負担増に対して過剰に否定的にならないよう、スタッフにもこの重要性を理解してもらい、クリニック一丸となって早めに導入促進に向けた取り組みを進められてはいかがでしょうか。

 

MedicalLIVES(メディカルライブズ)のコラム一覧はこちら>>

 

 

著者:川本 浩史

株式会社船井総合研究所

提供:© Medical LIVES / シャープファイナンス