麻酔科医が「増えているのに足りない」ワケ
実際、麻酔科医は年々増加傾向にあります。2020年の調査によると、「主たる診療科」と「従たる診療科」を合計した麻酔科医の数は約1万2,000人。10年前(2010年)と比べ増加しています。また、若手では特に女性麻酔科医が増えているようです。
人手不足に拍車をかける「仕事内容の変化」
かつての麻酔科医の仕事は、先述した「手術の監督者」の役割のみでした。
しかし、前述のとおり麻酔科は「疼痛管理のプロ」という側面がピックアップされ、「ペイン科」という他の科では扱わない痛みを専門に扱う科として役目が担われています。
さらに、そこから発展して「いかに痛みがなくがんの終末期を迎えられるか」という側面から、緩和ケアに従事することもあります。また、分娩も「無痛分娩」が流行しはじめ麻酔科の役割も「鎮痛」という観点からどんどん発展しているのです。
もう1つの理由は、医師の女性化と地域の医師の偏在化です。
どの地域でも手術は必要です。手術でしか助けられない命は必ずあります。
しかし、地域による人気・不人気がでてくると、一定の地域には「麻酔科がない」ということも往々にして出てきます。
特に、緊急手術はいつ行われるかわかりませんから、麻酔科は24時間体制でいなければなりません。多くなっているとはいえ、全国で「主たる科」として標榜している麻酔科医は10,000人。しかし、都道府県別の内訳をみると、非常に大きな「偏在化」が見受けられます。
たとえば、麻酔科医が多い地域は北海道、大分県、鹿児島県で、約4.7%が麻酔科医となります。一方、麻酔科医が少ない地域は三重県や新潟県などで、多い県の約半分(2.3%)しかいません。
当然麻酔科医の割合が減ると、相対的に1人あたりの責任や仕事量は増えます。精神的ストレスも多く、医療事故の可能性も出てきます。
このように、さまざまなスキルを持ち合わせている魅力の高い科だからこそ、色々な病院でひっぱりだこであり、地域の医師偏在化に耐えられていないのです。
麻酔科医の高年収は見合ってる?
麻酔科医は、手術の成功と患者の安全を担保する重要な役割を果たす大切な職業。そのため、麻酔科医の年収は他の専門医に比べて高い傾向にあります。
しかし、その一方で、麻酔科医は常に「不足」が叫ばれており、「監督」としての精神的ストレス、夜間勤務も余儀なくされることによる睡眠障害、そして幅広い状況に対応しなければならない職業性ストレスなど、多くの健康リスクやデメリットに直面しています。
また、麻酔科医の仕事は専門性が高く、その知識と技術を習得するには長い時間と労力が必要です。さらに、麻酔科医から開業医へのキャリアアップが難しいという問題もあるでしょう。
これらの要素を考慮すると、麻酔科医の年収が高いことは、その責任とリスクを反映していると言えます。
これらをふまえて、あなたは麻酔科医の年収に見合っていると思いますか? 手術でしか救えない患者さんを救うためにも、麻酔科医不足が早く解消されることを願っています。
秋谷 進
東京西徳洲会病院小児医療センター
小児科医