古代ギリシアの哲学者・ソクラテスは、「自分が無知であることを自覚した者こそ、本当に知恵のある者だ」と考えました。実はこの考え方、株式投資にも当てはまる部分があります。本稿では、株式会社ソーシャルインベストメントの川合一啓氏が、株式投資における「不知の自覚」「無知の知」の重要性について解説します。
バフェットがある時期まで「ハイテク株」には手を出さなかった理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

中途半端な理解が危険な結果を招く

「有名な評論家が上がると言っていたから、日本株は買いだろう」

「これからはAIやEVの時代だから、関連銘柄を買っておこう」

「あの有名トレーダーが実践した投資手法ならば、必ず勝てる」

 

このような理由で株を買ってしまう人がいます。しかし、それは「危険な投資」だといえます。専門家の声を鵜呑みにして安直に買いの判断を下す前に、次のような疑問を持つべきではないでしょうか。

 

・「有名な評論家」の言っていることの根拠を、自分は理解しているだろうか。また、政策が変わったり、どこかで災害や戦争が起きたりして株価が下がる可能性もあるはずだ
・「AIやEV」の技術とは一体なんだろうか。そしてそれが実際に、どのような経済効果をもたらし、どの会社が儲かるのか、本当にわかっているのだろうか
・「あの有名トレーダー」が実践した手法は、あらゆる状況において適しているのだろうか。マネしただけで、本当に勝てるのだろうか

 

自分の知識は絶対に正しいなどと考えてはなりません。いつも疑っているぐらいが、ちょうどいいのです。それこそがソクラテスの唱えた「不知の自覚」であり、株式投資においてもその姿勢が不可欠です。

 

「よくわからない」ことには「手を出さない」のが基本

また、よくわからないことに手を出してしまうことも、失敗の原因となります。

 

ウォーレン・バフェット氏も次のように言っています。

 

“自分の能力の輪の中にめぼしいものがないからといって、むやみに輪を広げることはしません。じっと待ちます”

 

彼はある時期まで、「ハイテク株」には手を出さなかったそうです。その理由は、「よくわからない」から。そして、自分が理解できない事業を展開している会社は評価できないため、投資の対象とは考えませんでした。

 

彼にとってハイテク企業の評価は、自分の能力の輪の中には入っていなかったのです。

 

よくわからないことには手を出さない。そうすれば、得をすることがなくても、損をすることもありません。だから一時的に利益を逸したとしても、後に十分な利益を得られる余地が残るのです。

 

そしてそれを実践するためには、自分の中で、十分にわかっていることと、そうでないことを区別する必要があります。それはまさに、「無知の知」といえます。

 

未来は不確実だという前提で

そして根本的な問題として、未来は不確実である、という点も挙げられます。

 

それを自覚していない人ほど、「絶対上がる」などと過信して痛い目を見ることがあるのです。過信していたとしても、たまたま上手くいってしまうこともあるでしょうが、それが長く続くことはありません。

 

長く株式投資をしていれば、予測が外れることも損失を出してしまうことも、必ず起こるのです。人間にとって未来は不知であり、「絶対」という精度で予測することは不可能です。あくまで、確率を考えることしかできません。

 

したがって、すべての資金を株式に換えてしまうのは禁物です。

 

自分がよく理解している領域で、分の良さそうな勝負だと判断したら大きく賭ける、そうでない場合、なにかと話題にはなっているが自分ではよく理解できていない場合は小さく賭けるなど、未来が不確実であることを前提に、確率に基づいた投資をする必要があるのではないでしょうか。