2025年には65歳以上の高齢者1人を2人の現役層が支える超高齢化社会に突入するといわれています。そんななか、気になるのは公的年金制度がこの先も維持されていくのか、年金を受け取れるのかということです。この点について、経済ジャーナリストの荻原博子氏は、年金そのものが破綻することはないと断言します。なぜでしょうか。荻原氏の著書「年金だけで十分暮らせます」(PHP研究所)より、一部抜粋して紹介します。
「年金破綻」は絶対にないが…国民の負担を増やすため政府が仕組んだ「5つのテクニック」【経済ジャーナリストが解説】

実は、民主党政権時に、今の年金制度を、自分が支払った分だけを将来受け取れるような年金制度に変えようとしたことがあります。ところが、すでにある年金制度が、あまりに借金だらけだったために制度の変更ができなかったという経緯があります。

 

それでも年金は、どんなに借金だらけであっても、「破綻」しません。なぜなら、その借金は、すぐに全額支払わなくてもいいからです。過去に日本は、太平洋戦争という大きな戦争を経験しました。この戦争は、1941年12月に、日本がアメリカ、イギリスに宣戦布告し、1945年8月まで3年9ヶ月続きました。

 

実は、当時の逓信省(その一部が、後の郵政省、今の日本郵政)が、この戦争が始まる前の1941年10月に、「定額郵便貯金」を、そして戦争の最中の1942年6月に、今の厚生年金の元と言える「労働者年金」をスタートさせています。

 

日本の命運をかけた戦争の前後に、将来のための貯金や会社員の福利厚生のための年金が誕生しているというのもおかしな話ですが、これは戦費調達の手段だったと言われています。

 

この戦争で、日本は敗戦。国の財政は破綻状態になりました。そのとき明暗を分けたのが、「定額郵便貯金」と「労働者年金」です。国が戦争に負けたことで、みんなが「郵便預金」などの引き出しに殺到しました。

 

けれど、「定額郵便貯金」で集めたお金はすでに戦費に回され、金庫の中は空っぽ。戦争でお金を使い切ってしまっていたために国民に預金を払い戻すことができなくなった政府は、「預金封鎖」という手を使い、国民の預金の引き出しに制限をかけました。さらにインフレが進んで新円切り替えも行われ、貨幣価値が目減りします。

 

貨幣の価値が大幅に低下すれば、お金は紙切れ同然です。国に預けたお金も価値を失います。こうして、国は、事実上、庶民から預かったお金を「踏み倒し」たのです。

 

一方、年金制度はスタートしたばかりで、支給するのはかなり先のこと。ですから、集めたお金が戦費で使われていても、踏み倒しのようなことは起きませんでした。

 

つまり、すぐに引き出せる預金とは違い、どんなに大きな借金があっても、年金は原則65歳以降に支給することになっているので、破綻はしにくいということです。

 

もちろん、それをいいことに、積立金の杜撰な投資を続けていると、負債が雪だるま式に増えていくのは言うまでもありません。