「想像するより低い」介護の費用
生命保険文化センターが、介護の費用がどれくらいかかると予想されるかというアンケート(2021年度)を行っています。
この結果を見ると、驚いたことに1人あたり平均3,311万円。つまり、2人だと6,000万円くらいはかかると思っている人が多いということ。こんな数字を見れば、思わず老後が不安になってしまうでしょう。
けれども、恐れることはありません。同じアンケートで、実際にかかった費用がどれくらいだったのか、介護を経験した人に聞いています。それを見ると、1人平均で約581万円。つまり、2人とも介護が必要になっても、平均すると2人合わせて1,100万円ほどしか、かからないそうです。
これから介護が必要になるかもしれないという人は2人で約6,000万円と見積もっており、すでに介護を経験している人は約1,100万円しか使わなかった─、ここまで差があるのは、どういうことなのでしょうか。
長い間、私にとってこれは疑問だったことの1つですが、ある日、女優の小山明子さんとお話しする機会がありました。その時、「大島(夫の故・大島渚監督)の介護には、本当にお金がかかった」という話を聞き、「そうか」と思いました。
大島渚監督が脳出血のためにロンドン・ヒースロー空港で倒れたのは、1996年。以降、小山さんは献身的に大島監督の介護をしてきたことは多くの人の知るところです。
大島監督が倒れた1996年当時は、まだ介護保険制度がありませんでした。ですから、介護にかかる費用は全額自己負担。なので、介護費が相当の額になったことは容易に想像できます。
その後、日本で介護保険制度ができ、2000年4月1日から運用がスタートしています。介護保険制度は、介護を必要とする家庭の負担を軽減しました。たとえば要介護5の寝たきりの方が36万円の介護サービスを受けたとしても、介護保険を使えば、普通の収入なら1割の3万6,000円の自己負担ですみます。
それまでは、1年間、月36万円のサービスを受け続けたとしたら年間432万円、7年間寝込んだとしたら約3,000万円になりました。
けれども、1割負担で月3万6,000円の自己負担なら、1年間で43万2,000円。7年間寝込んでも302万4,000円しかかかりません。
しかも、収入の低い人の自己負担はさらに安くなり、65歳以上の世帯で全員が市区町村税を課されていなければ、支払いの上限は月2万4,600円。さらに、前年の合計所得と公的年金を合わせて年間80万円以下の方(個人)なら、月1万5,000円です。
実際に介護を経験した方は、こうした制度を使っているので、自己負担額が低いのでしょう。